※この作品は、Coolier様にあるプチ東方創想話ミニの作品集6に投稿されていたものです。
燃える、燃える、燃える。
焼ける、焼ける、焼ける。
柱が。
扉が。
床が。
燃えてゆく。
焼けてゆく。
破壊されてゆく。
「あはっ、あははっ、あははははははは」
炎に染まる。
紅に染まる。
何もかもが。
燃えてゆく。
焼けてゆく。
何もかもが。
嗚呼。
天井が。
広間が。
回廊が。
がらがらと。
ごうごうと。
めりめりと。
音を立てて。
大きな音を立てて。
炎に嘗め尽くされるが儘に。
何一つ抵抗せぬ儘に。
轟々と。
そして濛々と。
炎は進む。
紅は進む。
回り、渦となって。
止まらない。
そして―――
炎は全てを呑み込み破壊してゆく。
何ものも呑み込みそうな真紅の破壊が渦巻く中、台風の目であるかのように中心は静かだった。
破壊が過ぎ去った残骸は何も残らず、破壊の中心はただ灼熱する大地が煮え滾るばかり。
そして、破壊の中心、灼熱する大地の中心。
そこに彼女は居た。
虹色の羽を生やす歪な翼。
気高き金色の髪。
手に持った歪な形の魔杖。
麗しき真紅の眼。
彼女の名は、フランドール。
悪魔の妹、フランドール・スカーレット。
生半可な物質ならば存在すら許されそうにない超熱の中、平然と佇む彼女は瞳に映るものを見ながら、それらに興味をもっていなかった。
それもそうだ。ただ紅いばかりであれば、興味など持ちようもないだろう。
しかし彼女の口元が歪む。形作るは笑みの形。
何が楽しくてそうするのか、彼女は理解していない。
そもそも理解という言葉自体、彼女から遠く離れた言葉だ。
ただ、彼女は笑っていた。
495年程度生きて、得た知識は常人の10年にすら及ばなくとも、ただ、彼女は笑っている。
何故かを考えるという事は、彼女にはない。
理由を考える必要性を今まで感じた事がないからだ。
喜怒哀楽を彼女は本能に任せているに過ぎない。
自発的に望んだり、回避したりする必要性を今まで感じた事がないからだ。
そして今の笑みが、破壊という衝動が満たされているが故の喜悦である事を、彼女は知りえない。
爆発する。
炸裂する。
爆轟が全てを薙ぎ滅ぼしていく。
焔が全てを破壊し尽くしていく。
燃える。
焼ける。
焦げる。
砕ける。
壊れる。
融ける。
真紅は嵐となり、形ある全てにその暴威を撒き散らす。
「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
響き渡る哄笑。
意味が不明の笑い。
しかし声は止まず、炎の破壊の向こうから響いてくる。
満たされるまで。
そして―――
炎は全てを呑み込み破壊してゆく。
人は彼女に狂気を見る。
何故か?
彼女の言動が理解できないからだ。
理解できないが故に、彼女に狂気を与え、彼女を理解しようとする。
例えば。
メイドの幾人かが炎によって破壊された。
メイド達には勿論非は無く、彼女等は与えられた職務を精確にこなしていただけで、誰からしても責められる謂れ等無い。まして、破壊され死に至らしめられる理由など想像は不可能だろう。
この場合、下手人がフランドールであれば皆は納得する。
曰く、あの方は狂っておられるから、と。
狂っておられるから、あのような意図の計り知れぬ非道をなさるのだ、と。
だから人は彼女に狂気を見る。
そうしなければ理解できないから。
しかし、館の中でも位の高い者達と、偶然に魅入られた者達は知っている。
ただ彼女は、フランドール・スカーレットは、気付いた時には手遅れだっただけなのだ、と。
彼女にあるのは狂気ではないのだ、と。
門番は言った。
「事情を知れば、仕方の無い事だとは思いますが……。私からは、これ以上は」
司書は言った。
「妹様に対しては、何も間違っていなかったと思います。ただ、何も正解じゃなかっただけで」
知識人は呟いた。
「私がもう500年は早く生まれていれば……。時々、レミィを見ていると思ってしまうわ」
真紅の面を被ったメイド達は口を揃えた。
「あの方は可哀相な方なのです」
メイド長は言った。
「……当時他に方法が無かったのですから、今ある様にしかならなかったのでしょう」
紅い悪魔は言った。
「あの娘はとうに自分の運命すら破壊してしまっている。今後、あの娘がどうなるかなんて私にすら分からない」
フランドール・スカーレットを指して、誰も狂気という言葉を使わなかった。
ただ、言葉の端々に隠しきれず滲むのは、憐憫の想い。
紅い悪魔は言った。
「あの娘は、自分の能力の真っ当な使い方を知らず、また知る前から使っていたせいで、いつのまにか自分すら破壊していた。私が誰か、とかそういう認識能力や、最低限の読み書きはまだできるようだけど、それすら何時破壊してしまうか分からない。そう簡単に、ありとあらゆるものを破壊する能力なんてもの、行使できる訳がないだろう?」
メイド長は言った。
「妹様に相応しい言の葉は、決して狂気などではありませんわ。地下へ封印しなければならない程ではありますが、妹様は狂ってはおられません」
真紅の面を被ったメイド達は口を揃えた。
「あの方は、恐らく分かってやっておられる時も分からずにやっておられる時も、同じなのでしょう。そして、あの方は一度忘れてしまった事はもう一度憶え直さなければならないのです。何かを思い出すという事が出来ない方ですから」
知識人は呟いた。
「率直に言ってしまえば、妹様の破壊可能範囲には限りは無いの。今の所は目に見えるものだけを限定して破壊しているようだけど、私からすればそれすら怪しい。一度気付いてしまえば、どこからでもどんなものでも破壊できるんじゃないかしら? それこそ、物理的なものだろうと、精神的なものだろうと」
司書は言った。
「あの方に破壊できないものは存在しないでしょうね。それこそ、破壊したいと思ったもの全ての目を掌の上で潰せば済むだけなのでしょうから。でも物心付く前に、破壊という意味すら知らずに……いえ、何でもありません。私が言うには憚りあり過ぎる事でした」
門番は言った。
「笑顔は凄く綺麗なんですよ。本当に、心から楽しいんだなっていうのが分かるくらい純粋に、無邪気に笑うんですよ。ただ、その笑顔を満面に湛えつつ弾幕ごっこですから困るんですけどね」
そして、紅い悪魔は言った。
「あの娘は、言ってしまえば愚者よ。それも飛び切りのね」
行き過ぎた純粋には、狂気が映る。
知恵無き純粋にも又、狂気が映る。
狂気とはなんぞや?
狂うとはなんぞや?
善し悪しを計れぬ幼子の暴力は、果たして狂気と言えるか?
善し悪しの判断が付かぬ上での力でも、狂気と言えるのか?
―――ただ、もはやそんな事はどうでもよいのである。
止まぬ哄笑。
燃え盛る世界。
炎は全てを呑み込み破壊してゆく。
燃える、燃える、燃える。
焼ける、焼ける、焼ける。
柱が。
扉が。
床が。
燃えてゆく。
焼けてゆく。
破壊されてゆく。
「あはっ、あははっ、あははははははは」
炎に染まる。
紅に染まる。
何もかもが。
燃えてゆく。
焼けてゆく。
何もかもが。
嗚呼。
天井が。
広間が。
回廊が。
がらがらと。
ごうごうと。
めりめりと。
音を立てて。
大きな音を立てて。
炎に嘗め尽くされるが儘に。
何一つ抵抗せぬ儘に。
轟々と。
そして濛々と。
炎は進む。
紅は進む。
回り、渦となって。
止まらない。
そして―――
炎は全てを呑み込み破壊してゆく。
何ものも呑み込みそうな真紅の破壊が渦巻く中、台風の目であるかのように中心は静かだった。
破壊が過ぎ去った残骸は何も残らず、破壊の中心はただ灼熱する大地が煮え滾るばかり。
そして、破壊の中心、灼熱する大地の中心。
そこに彼女は居た。
虹色の羽を生やす歪な翼。
気高き金色の髪。
手に持った歪な形の魔杖。
麗しき真紅の眼。
彼女の名は、フランドール。
悪魔の妹、フランドール・スカーレット。
生半可な物質ならば存在すら許されそうにない超熱の中、平然と佇む彼女は瞳に映るものを見ながら、それらに興味をもっていなかった。
それもそうだ。ただ紅いばかりであれば、興味など持ちようもないだろう。
しかし彼女の口元が歪む。形作るは笑みの形。
何が楽しくてそうするのか、彼女は理解していない。
そもそも理解という言葉自体、彼女から遠く離れた言葉だ。
ただ、彼女は笑っていた。
495年程度生きて、得た知識は常人の10年にすら及ばなくとも、ただ、彼女は笑っている。
何故かを考えるという事は、彼女にはない。
理由を考える必要性を今まで感じた事がないからだ。
喜怒哀楽を彼女は本能に任せているに過ぎない。
自発的に望んだり、回避したりする必要性を今まで感じた事がないからだ。
そして今の笑みが、破壊という衝動が満たされているが故の喜悦である事を、彼女は知りえない。
爆発する。
炸裂する。
爆轟が全てを薙ぎ滅ぼしていく。
焔が全てを破壊し尽くしていく。
燃える。
焼ける。
焦げる。
砕ける。
壊れる。
融ける。
真紅は嵐となり、形ある全てにその暴威を撒き散らす。
「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
響き渡る哄笑。
意味が不明の笑い。
しかし声は止まず、炎の破壊の向こうから響いてくる。
満たされるまで。
そして―――
炎は全てを呑み込み破壊してゆく。
人は彼女に狂気を見る。
何故か?
彼女の言動が理解できないからだ。
理解できないが故に、彼女に狂気を与え、彼女を理解しようとする。
例えば。
メイドの幾人かが炎によって破壊された。
メイド達には勿論非は無く、彼女等は与えられた職務を精確にこなしていただけで、誰からしても責められる謂れ等無い。まして、破壊され死に至らしめられる理由など想像は不可能だろう。
この場合、下手人がフランドールであれば皆は納得する。
曰く、あの方は狂っておられるから、と。
狂っておられるから、あのような意図の計り知れぬ非道をなさるのだ、と。
だから人は彼女に狂気を見る。
そうしなければ理解できないから。
しかし、館の中でも位の高い者達と、偶然に魅入られた者達は知っている。
ただ彼女は、フランドール・スカーレットは、気付いた時には手遅れだっただけなのだ、と。
彼女にあるのは狂気ではないのだ、と。
門番は言った。
「事情を知れば、仕方の無い事だとは思いますが……。私からは、これ以上は」
司書は言った。
「妹様に対しては、何も間違っていなかったと思います。ただ、何も正解じゃなかっただけで」
知識人は呟いた。
「私がもう500年は早く生まれていれば……。時々、レミィを見ていると思ってしまうわ」
真紅の面を被ったメイド達は口を揃えた。
「あの方は可哀相な方なのです」
メイド長は言った。
「……当時他に方法が無かったのですから、今ある様にしかならなかったのでしょう」
紅い悪魔は言った。
「あの娘はとうに自分の運命すら破壊してしまっている。今後、あの娘がどうなるかなんて私にすら分からない」
フランドール・スカーレットを指して、誰も狂気という言葉を使わなかった。
ただ、言葉の端々に隠しきれず滲むのは、憐憫の想い。
紅い悪魔は言った。
「あの娘は、自分の能力の真っ当な使い方を知らず、また知る前から使っていたせいで、いつのまにか自分すら破壊していた。私が誰か、とかそういう認識能力や、最低限の読み書きはまだできるようだけど、それすら何時破壊してしまうか分からない。そう簡単に、ありとあらゆるものを破壊する能力なんてもの、行使できる訳がないだろう?」
メイド長は言った。
「妹様に相応しい言の葉は、決して狂気などではありませんわ。地下へ封印しなければならない程ではありますが、妹様は狂ってはおられません」
真紅の面を被ったメイド達は口を揃えた。
「あの方は、恐らく分かってやっておられる時も分からずにやっておられる時も、同じなのでしょう。そして、あの方は一度忘れてしまった事はもう一度憶え直さなければならないのです。何かを思い出すという事が出来ない方ですから」
知識人は呟いた。
「率直に言ってしまえば、妹様の破壊可能範囲には限りは無いの。今の所は目に見えるものだけを限定して破壊しているようだけど、私からすればそれすら怪しい。一度気付いてしまえば、どこからでもどんなものでも破壊できるんじゃないかしら? それこそ、物理的なものだろうと、精神的なものだろうと」
司書は言った。
「あの方に破壊できないものは存在しないでしょうね。それこそ、破壊したいと思ったもの全ての目を掌の上で潰せば済むだけなのでしょうから。でも物心付く前に、破壊という意味すら知らずに……いえ、何でもありません。私が言うには憚りあり過ぎる事でした」
門番は言った。
「笑顔は凄く綺麗なんですよ。本当に、心から楽しいんだなっていうのが分かるくらい純粋に、無邪気に笑うんですよ。ただ、その笑顔を満面に湛えつつ弾幕ごっこですから困るんですけどね」
そして、紅い悪魔は言った。
「あの娘は、言ってしまえば愚者よ。それも飛び切りのね」
行き過ぎた純粋には、狂気が映る。
知恵無き純粋にも又、狂気が映る。
狂気とはなんぞや?
狂うとはなんぞや?
善し悪しを計れぬ幼子の暴力は、果たして狂気と言えるか?
善し悪しの判断が付かぬ上での力でも、狂気と言えるのか?
―――ただ、もはやそんな事はどうでもよいのである。
止まぬ哄笑。
燃え盛る世界。
炎は全てを呑み込み破壊してゆく。