※この作品は、Coolier様にあるプチ東方創想話ミニの作品集11に投稿されていたものです。
道がある。
私の足元からずっと先へ、果ても無く続く道がある。
振り返ってみれば、やはり行き着く先の見えない程長い道があった。
他には何も無い。
―――いや、私が居るか。
紅い色をした上等な絨毯のようなこの道と、その上にいる私。
道の美しい紅に比べ、私の色は分からない。
道の色が濃すぎるからだろうか。
道の色が強すぎるからだろうか。
道の色が美すぎるからだろうか。
それとも。
道の色に比べ、私の色はあまりにもみすぼらしいから……だろうか。
気付けば私は道を歩いていた。
それが前なのか後ろなのかは分からない。
ただ、体の向いている方向へと歩き出していた。
これが前へ進んでいるという確たるものは無いが、しかし気付けばこちらの方向を向いていたのだから、つまりそちらへ進むべきなのだろう。
それが前進の為ではなく、後退―――逃亡の為であろうとも。
私は道を進む。
進み続ける。
私は道を退く。
退き続ける。
どれ程歩いたか等、私と道以外何も無い此処では分かりようが無く。
どれ程の時間が流れたかも、至極当然の事ながら分かりようが無い。
ただ、ただ、私は歩き続ける。
進み続ける体は疲れを知らず、歩幅は一定、歩調も一定。
今やこれが前へなのか後ろへなのかはどうでも良くなっていた。
私は歩き続けた。
さて、そういえば何故私は歩いているのだろう。
考えてみたが、どうも理由が分からない。
理由が分からないという事は、なんとなくからか、それとも何かそうしなければならないという思いが以前にあったのか。
前者であればいつでも立ち止まれる筈。
しかし立ち止まる事は出来なかった。
立ち止まろうという気にならなかったからだ。
何故かは分からないが、すると歩いている理由は後者らしい。
ひょっとしたら後者からでもなく、背の方から来るかもしれない何かを知らず恐れているからかも―――
―――いや、それはない。
何かを、そして誰かを恐れるというのはこの私にとって酷くあり得ないからだ。
……ただ困った事にこれもまた理由が分からないが。
ともあれ、私は私に絶対の信頼と自信を持っているらしい。
推測ばかりで、肯定の材料が乏しければ否定の材料も乏しい有様ではある。
だが先程からの私の確信めいた思いは頼るに足るだろう。
いや、この何も無い所で私が頼れるのは私だけ。
私の思いを私が肯定に使う事に何ら不都合はなく、けれどそれは逆もまた然り。
分からない。
ただ確かなのは、私の足が止まろうとしない事と、私は何者も恐れないという事。
そして私は行く。
何処へ?
分からない。
歩き続ける最中、折角だからと歩数を数えてみたのだが、桁が七つ目に入ろうかという辺りで止めた。
紅い道は相変わらずで、前も後ろも相変わらず。
何処まで行こうとも此処は永遠なのだろうか?
そんな思いすら抱き始めていた。
それでも歩幅や歩調に変わりは無く、勿論疲れも全く無い。
疲れないから立ち止まらないのかとも思ったが、それは即座に違うと思った。
そしてそう思ったという事は、私は私の意志で歩いているという事になる。
この先に何があるかも分からないまま。
ああ、そういえばここは何処なのだろうか。
今更としか言い様の無い、根本的な疑問を思いついた。
前後共に行き着く先が分からないが、現時点でのここは何処なのだろう。
紅い道の上を歩きながら私は考えてみるものの、判断基準が紅い道しかないのだから、何処かと言えばここは紅い道の上と言える。
だが、言えるだけだ。私の疑問の答えではない。
ここは何処なのだろう。
……いや、ここは何処かと思う以前に、そも私はなんなのだろう。
何も無い中をただ歩き続ける私。
歩こうという意思の下で歩き、何も恐れない私。
名前は分からない。
あった気はするのだが、既に失われている気がする。
ならば新しい名前がありそうなものなのだが。
なんだったろうか。
疑問を増やすも、私の足は止まらない。
何の気なく後ろを振り返ってみた。
道が無かった。
驚きから私の足が止まり、直後、落ちた。
―――まぁ、紅い道の上に乗って歩いていたのだから、その足場が無くなれば落ちるのは当然か。
物凄い風圧らしき何かに身を晒しつつ、何故か私は冷静にそんな事を思っていた。
どうやら私は死すら恐怖の対象ではないらしい。
この、どう考えても行き着く先は死でしかない状況で冷静でいられるのだから。
それにしても道が消えた事で落ちたのなら、私は背後から迫る道の消失から逃れようとしていた事になる。
何故逃れていたのだろう。
私は死も恐れないというのに。
何処までも私は落ちていく。
紅い道の果てが分からなかったように、この落下の終わりもいつなのか分からないのだろうか。
ただ落ちるという感覚があるだけで、実際には周りをどれだけ見回そうとも全く何も無い訳だが。
何処までも何処までも落ちていくこの感覚。
先程までのように紅い道という基準が無い以上、今度こそ終わりが無いのだろう。
きっと。
折角私が永遠を覚悟したというのに、終わりは唐突だった。
私は□ッ□□ら□ち□、床に□き□□ら□たのだから。
床―――?
―――目覚めから覚醒まで十秒もかからなかった。
そして自らの状況を知り、そのままの状態で首を捻る。
「……なんで私は……ベッドから落ちてるのかしら」
それもシーツに半ば包まる形で。
このベッドで寝起きするようになって結構な年月が経っているが、その間こんな破目に陥った事は一度も無い。
確率的にはゼロが無いのだから、一度はこういう目に遭っても仕方ないといえば仕方ないけれど。
微妙な情けなさから溜息を漏らしつつ起き上がろうとして、何故か奇妙な混乱を覚えた。
私は何なのか。
ここは何処だったのか。
何処へ向かっているのか。
そんな混乱。
だが意識は一秒以内で正常化。
混乱は即座に霧消。
そして先程までの混乱を軽く笑い、私は紅い絨毯の上に立つ。
――― 一瞬後、紅い絨毯の上に立つ完全で瀟洒なメイドが一人。
道がある。
私の足元からずっと先へ、果ても無く続く道がある。
振り返ってみれば、やはり行き着く先の見えない程長い道があった。
他には何も無い。
―――いや、私が居るか。
紅い色をした上等な絨毯のようなこの道と、その上にいる私。
道の美しい紅に比べ、私の色は分からない。
道の色が濃すぎるからだろうか。
道の色が強すぎるからだろうか。
道の色が美すぎるからだろうか。
それとも。
道の色に比べ、私の色はあまりにもみすぼらしいから……だろうか。
気付けば私は道を歩いていた。
それが前なのか後ろなのかは分からない。
ただ、体の向いている方向へと歩き出していた。
これが前へ進んでいるという確たるものは無いが、しかし気付けばこちらの方向を向いていたのだから、つまりそちらへ進むべきなのだろう。
それが前進の為ではなく、後退―――逃亡の為であろうとも。
私は道を進む。
進み続ける。
私は道を退く。
退き続ける。
どれ程歩いたか等、私と道以外何も無い此処では分かりようが無く。
どれ程の時間が流れたかも、至極当然の事ながら分かりようが無い。
ただ、ただ、私は歩き続ける。
進み続ける体は疲れを知らず、歩幅は一定、歩調も一定。
今やこれが前へなのか後ろへなのかはどうでも良くなっていた。
私は歩き続けた。
さて、そういえば何故私は歩いているのだろう。
考えてみたが、どうも理由が分からない。
理由が分からないという事は、なんとなくからか、それとも何かそうしなければならないという思いが以前にあったのか。
前者であればいつでも立ち止まれる筈。
しかし立ち止まる事は出来なかった。
立ち止まろうという気にならなかったからだ。
何故かは分からないが、すると歩いている理由は後者らしい。
ひょっとしたら後者からでもなく、背の方から来るかもしれない何かを知らず恐れているからかも―――
―――いや、それはない。
何かを、そして誰かを恐れるというのはこの私にとって酷くあり得ないからだ。
……ただ困った事にこれもまた理由が分からないが。
ともあれ、私は私に絶対の信頼と自信を持っているらしい。
推測ばかりで、肯定の材料が乏しければ否定の材料も乏しい有様ではある。
だが先程からの私の確信めいた思いは頼るに足るだろう。
いや、この何も無い所で私が頼れるのは私だけ。
私の思いを私が肯定に使う事に何ら不都合はなく、けれどそれは逆もまた然り。
分からない。
ただ確かなのは、私の足が止まろうとしない事と、私は何者も恐れないという事。
そして私は行く。
何処へ?
分からない。
歩き続ける最中、折角だからと歩数を数えてみたのだが、桁が七つ目に入ろうかという辺りで止めた。
紅い道は相変わらずで、前も後ろも相変わらず。
何処まで行こうとも此処は永遠なのだろうか?
そんな思いすら抱き始めていた。
それでも歩幅や歩調に変わりは無く、勿論疲れも全く無い。
疲れないから立ち止まらないのかとも思ったが、それは即座に違うと思った。
そしてそう思ったという事は、私は私の意志で歩いているという事になる。
この先に何があるかも分からないまま。
ああ、そういえばここは何処なのだろうか。
今更としか言い様の無い、根本的な疑問を思いついた。
前後共に行き着く先が分からないが、現時点でのここは何処なのだろう。
紅い道の上を歩きながら私は考えてみるものの、判断基準が紅い道しかないのだから、何処かと言えばここは紅い道の上と言える。
だが、言えるだけだ。私の疑問の答えではない。
ここは何処なのだろう。
……いや、ここは何処かと思う以前に、そも私はなんなのだろう。
何も無い中をただ歩き続ける私。
歩こうという意思の下で歩き、何も恐れない私。
名前は分からない。
あった気はするのだが、既に失われている気がする。
ならば新しい名前がありそうなものなのだが。
なんだったろうか。
疑問を増やすも、私の足は止まらない。
何の気なく後ろを振り返ってみた。
道が無かった。
驚きから私の足が止まり、直後、落ちた。
―――まぁ、紅い道の上に乗って歩いていたのだから、その足場が無くなれば落ちるのは当然か。
物凄い風圧らしき何かに身を晒しつつ、何故か私は冷静にそんな事を思っていた。
どうやら私は死すら恐怖の対象ではないらしい。
この、どう考えても行き着く先は死でしかない状況で冷静でいられるのだから。
それにしても道が消えた事で落ちたのなら、私は背後から迫る道の消失から逃れようとしていた事になる。
何故逃れていたのだろう。
私は死も恐れないというのに。
何処までも私は落ちていく。
紅い道の果てが分からなかったように、この落下の終わりもいつなのか分からないのだろうか。
ただ落ちるという感覚があるだけで、実際には周りをどれだけ見回そうとも全く何も無い訳だが。
何処までも何処までも落ちていくこの感覚。
先程までのように紅い道という基準が無い以上、今度こそ終わりが無いのだろう。
きっと。
折角私が永遠を覚悟したというのに、終わりは唐突だった。
私は□ッ□□ら□ち□、床に□き□□ら□たのだから。
床―――?
―――目覚めから覚醒まで十秒もかからなかった。
そして自らの状況を知り、そのままの状態で首を捻る。
「……なんで私は……ベッドから落ちてるのかしら」
それもシーツに半ば包まる形で。
このベッドで寝起きするようになって結構な年月が経っているが、その間こんな破目に陥った事は一度も無い。
確率的にはゼロが無いのだから、一度はこういう目に遭っても仕方ないといえば仕方ないけれど。
微妙な情けなさから溜息を漏らしつつ起き上がろうとして、何故か奇妙な混乱を覚えた。
私は何なのか。
ここは何処だったのか。
何処へ向かっているのか。
そんな混乱。
だが意識は一秒以内で正常化。
混乱は即座に霧消。
そして先程までの混乱を軽く笑い、私は紅い絨毯の上に立つ。
――― 一瞬後、紅い絨毯の上に立つ完全で瀟洒なメイドが一人。