※この作品は、Coolier様にあるプチ東方創想話ミニの作品集11に投稿されていたものです。
「妖夢」
幽々子様が静かに私の名を呼んだ。
「は?」
庭で掃除をしていた私は、竹箒による掃く動きを止め、声の方へ顔を向ける。
そこは縁側。
二百由旬の庭の内のほんの僅かばかりを見通せるそこに、幽々子様は座っていた。
しかし今更だけど亡霊嬢が日向ぼっこというのは果たして健全なのか不健全なのか。
さておき。
「あなたは今、何を思っているのかしら?」
私の反応に対し、幽々子様は柔らかな笑顔でそんな事を仰る。
唐突過ぎる上に内容が訳分からない。
ある種いつも通りな気が凄くするけれど、いやいつもはどこか謎掛けとか引っ掛けとかが多分に含有したものの言い方をなさる筈。
要は迂遠と遊びの混ざった言い方で私をおちょくってる訳なんだろうけれど。
……分かっててもおちょくられる私はなんなのだろうとか思ってしまったけども、今は我が身を悲しむより幽々子様の問いに答える方を優先しなければ。
だけども。
どう答えたものか。
考える。
混乱した。
幽々子様の問い掛けはやっぱり苦手だ。
……聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥とも言うし、馬鹿の考え休むに似たり、とも言うから分からなければ聞けばよいのだけど。
ここで聞くから結果おちょくられるのである。
何とか聞かずして答えなければならないところだけど―――
「妖夢?」
幽々子様の甘やかな声が私の思考の進捗を台無しにした。
やはり無理です。
妖夢は不出来な子なのでしょうか、師匠。
「ええと、その、分かりません」
呼びかけに答えて出たのは白旗だった。
どう答えるかを聞こうと思っていたのに、幽々子様の甘やかな声が思考の進捗を台無しにしたばかりか混乱させもしたらしい。
頬ばかりか耳にまで熱を感じ、それがますます羞恥に拍車をかける。
けれど。
「そう、分からないの」
幽々子様はその一言だけで、私から視線を逸らし、どことも知れぬ方向へ視線を漂わせる。
そ……それだけですか幽々子様!?
てっきり何事か言葉遊びが始まるものだと思っていたのに、羞恥に赤くなってただろう事で弄られてしまうかと思っていたのに、実にあっさりと終わった事に思わず拍子抜けする。
しかもうっかりそれを表に出してしまったにも関わらず、幽々子様はこちらを全く気にせず日を浴びてらっしゃった。
つまりこの話はもうお終いという事になる訳で。
適当に庭掃除を再開しながら、折角だからと考えてみる。
幽々子様の問い。
対する私の答え。
そしてあの結果。
まず幽々子様の問い、あれは何を期待した質問だったんだろう。
たまに何も考えない問いをする事もあるけれど、そういう時は大抵雰囲気で分かる。
という事は真っ当なんだろう。
でもそんな真っ当な問い掛けに対する私の不甲斐無い答え。
それでも幽々子様はあっさりと納得してしまわれていた。
訳が分からない。
大体、“今何を思っているの”なんて聞かれても。
あの時思っていた事といえば、いえば……ん?
「ぁ」
そっか。
恐らくそうだったんですね幽々子様。
つまり全くそのままの事を答えれば良かったんじゃないかと。
今であれば、幽々子様の問いの正解らしき閃きを得てちょっと嬉しくなってるという事になって。
なーんだ、なんだ、なーんだぁ。
あ、でも独り善がりかも。
けれど今になって確認するのも、質問の内容が内容なだけに幽々子様が覚えてらっしゃらないかもしれない。
「ゆ―――あれ?」
駄目元で聞いてみようと青空から視線を落としたところ、縁側に幽々子様は居なかった。
軽く周囲を一瞥するが、庭には居ないようだ。
幽々子様が唐突に消えるというのは割と良くある事なので気にしない事にする。
紫様がお誘われになったのかもしれないし。
うーん。
まぁ今回は、次に同じような事を聞かれたら答える事ができるようになった筈だから、それで良しという事にしよう。
青空を見上げ、私はそこに師匠の顔を思い浮かべる。
師匠、私はまた一歩成長しました―――多分。
すると想像の産物だというのに、師匠は複雑な顔をした。
……ですよね。
嗚呼、日々精進日々精進。
「妖夢」
幽々子様が静かに私の名を呼んだ。
「は?」
庭で掃除をしていた私は、竹箒による掃く動きを止め、声の方へ顔を向ける。
そこは縁側。
二百由旬の庭の内のほんの僅かばかりを見通せるそこに、幽々子様は座っていた。
しかし今更だけど亡霊嬢が日向ぼっこというのは果たして健全なのか不健全なのか。
さておき。
「あなたは今、何を思っているのかしら?」
私の反応に対し、幽々子様は柔らかな笑顔でそんな事を仰る。
唐突過ぎる上に内容が訳分からない。
ある種いつも通りな気が凄くするけれど、いやいつもはどこか謎掛けとか引っ掛けとかが多分に含有したものの言い方をなさる筈。
要は迂遠と遊びの混ざった言い方で私をおちょくってる訳なんだろうけれど。
……分かっててもおちょくられる私はなんなのだろうとか思ってしまったけども、今は我が身を悲しむより幽々子様の問いに答える方を優先しなければ。
だけども。
どう答えたものか。
考える。
混乱した。
幽々子様の問い掛けはやっぱり苦手だ。
……聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥とも言うし、馬鹿の考え休むに似たり、とも言うから分からなければ聞けばよいのだけど。
ここで聞くから結果おちょくられるのである。
何とか聞かずして答えなければならないところだけど―――
「妖夢?」
幽々子様の甘やかな声が私の思考の進捗を台無しにした。
やはり無理です。
妖夢は不出来な子なのでしょうか、師匠。
「ええと、その、分かりません」
呼びかけに答えて出たのは白旗だった。
どう答えるかを聞こうと思っていたのに、幽々子様の甘やかな声が思考の進捗を台無しにしたばかりか混乱させもしたらしい。
頬ばかりか耳にまで熱を感じ、それがますます羞恥に拍車をかける。
けれど。
「そう、分からないの」
幽々子様はその一言だけで、私から視線を逸らし、どことも知れぬ方向へ視線を漂わせる。
そ……それだけですか幽々子様!?
てっきり何事か言葉遊びが始まるものだと思っていたのに、羞恥に赤くなってただろう事で弄られてしまうかと思っていたのに、実にあっさりと終わった事に思わず拍子抜けする。
しかもうっかりそれを表に出してしまったにも関わらず、幽々子様はこちらを全く気にせず日を浴びてらっしゃった。
つまりこの話はもうお終いという事になる訳で。
適当に庭掃除を再開しながら、折角だからと考えてみる。
幽々子様の問い。
対する私の答え。
そしてあの結果。
まず幽々子様の問い、あれは何を期待した質問だったんだろう。
たまに何も考えない問いをする事もあるけれど、そういう時は大抵雰囲気で分かる。
という事は真っ当なんだろう。
でもそんな真っ当な問い掛けに対する私の不甲斐無い答え。
それでも幽々子様はあっさりと納得してしまわれていた。
訳が分からない。
大体、“今何を思っているの”なんて聞かれても。
あの時思っていた事といえば、いえば……ん?
「ぁ」
そっか。
恐らくそうだったんですね幽々子様。
つまり全くそのままの事を答えれば良かったんじゃないかと。
今であれば、幽々子様の問いの正解らしき閃きを得てちょっと嬉しくなってるという事になって。
なーんだ、なんだ、なーんだぁ。
あ、でも独り善がりかも。
けれど今になって確認するのも、質問の内容が内容なだけに幽々子様が覚えてらっしゃらないかもしれない。
「ゆ―――あれ?」
駄目元で聞いてみようと青空から視線を落としたところ、縁側に幽々子様は居なかった。
軽く周囲を一瞥するが、庭には居ないようだ。
幽々子様が唐突に消えるというのは割と良くある事なので気にしない事にする。
紫様がお誘われになったのかもしれないし。
うーん。
まぁ今回は、次に同じような事を聞かれたら答える事ができるようになった筈だから、それで良しという事にしよう。
青空を見上げ、私はそこに師匠の顔を思い浮かべる。
師匠、私はまた一歩成長しました―――多分。
すると想像の産物だというのに、師匠は複雑な顔をした。
……ですよね。
嗚呼、日々精進日々精進。