穂積名堂 Web Novel

2012/02/29 01:57:28
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 ぽつぽつと屋根を叩く雨の音が部屋の中に響く。
 広い畳敷きの一間。家具の類が何も置かれていないその真ん中で、輝夜は仰向けに寝転んだままこれまた何も無い天井を見上げて雨の歌声に耳を傾けていた。
 少しばかり勢いを増した雨は、とと、と、ととと、とまるでタップを踏むように様々なリズムで瓦の屋根を打ち鳴らし、開け放たれた縁側から聞こえてくるアマガエルのバックコーラスと共に、即席の舞台はいよいよ最高潮に達しようとしていた。

「失礼します」

 と、そこへ音も無く襖を開けてその姿を見せたのは鈴仙だった。
 頭上に揺れる大きな二つの耳がいつもよりへなっているのは、この湿気の所為だったりするのだろうか? だとしたら色々と嫌過ぎる気がしないでもない。

「何か用?」

 突然襖を開けられても微動だにしなかった輝夜は今も変わらず。
 天井を眺めたまま、膝を付いて襖を開けた姿勢のまま部屋に入ってこようとしない鈴仙に向かって声をかけた。

「いえ……師匠に姫の様子を見てきてくれと言われまして……」
「あら、どういう風の吹き回しかしら?」
「今日の姫は朝から退屈されていたようですので、それでかと」
「そう……なら、貴女から見て今の私は退屈そうに見える?」
「失礼ながら」
「……ダメね」
「はい?」
「二言で言うならダメダメね」
「はぁ……」

 そう言って、輝夜は困惑顔になった鈴仙とは反対側、縁側の方へと首だけをころんと倒した。
 釣られるように鈴仙もそこから見える庭先へと目を向ける。
 藍色に染まる紫陽花が目一杯に広げた花に雨を受け、同じく雨にその身を揺らす葉の表には蝸牛が、裏側には羽根を濡らさぬように静かに佇む逆さまの蝶が居た。

「貴女もこっちに来て寝転んでみなさいな」
「いえ、しかし……」
「ああ、細かい事は気にしなくていいのよ。私が言った事なのだから、何も恐縮することなんて無いわ。それとも私なんかと一緒は嫌かしら?」
「そんなっ、とんでもない!」

 わたわたと鈴仙が両手を振る。
 輝夜は外を見ているために鈴仙からはその後ろ頭しか見えないが、それでもその肩が小さく震えているのが見えると、急に恥ずかしさがこみ上げてきて、今度は小さく縮こまってしまった。
 それでもそこまで言われては断るわけにもいかず、そそくさと寝転ぶ輝夜の側にまで来ると、失礼します、と断って短いスカートの裾を押さえながら慎重に畳の上に寝そべった。
 そんなに気にするならもう少し長くしたらどうかといわれそうだが、そこは鈴仙も立派な(?)宇宙人。
 そうでなくとも、そんな年頃の少女達の思考回路は無限の小宇宙。何を考えているかなんて解ったもんじゃない。
 一方輝夜といえば、もう勢いそのままに倒れこんだのか、普段は引き摺るほどに長いその裾は捲くれ上がり、日に当たることをほとんど知らない白く細いおみ足が膝下辺りまで露出していた。

 そして今度は二人。また雨のオーケストラに耳を傾ける。
 屋根の上で奏でられるタップダンス。アマガエルのコーラスの中に、屋根から落ちた雫がその下の水溜りに跳ねる音が程よいアクセントとなって響く。
 弱すぎず、強すぎず降り続ける雨は更に大地を、草木を、この場にある全ての物を打ち鳴らして楽器にする。
 しかしそれも長くは続かない。元来永遠なんてものはこの世に存在していないのだ。
 屋根の上のタップダンサーは、最後にととん、とその踵を打ち鳴らして幕を下ろした。
 ずっと輝夜と一緒に天井を見上げていた鈴仙が不意に外へと視線を向けると、今まで空を厚く覆っていた灰色の雲も薄れ、その隙間から一筋、二筋と太陽の光が降りていた。

「……止んじゃいましたね」
「そうねぇ……面白かった?」
「申し訳ありません……なんとなく解るような気もするのですが」
「そう、いいのよ別に。あと百年もしたら貴女にも解るようになるわ、きっと」
「百年……ですか」
「すぐでしょう? 百年なんて。なんなら貴女も飲む? あの薬」

 あの薬――改めて聞くまでも無い、蓬莱の薬の事だろう。
 いくら鈴仙が月の住人であり、その寿命がこの星の人間とは非にならないほどに長いとはいえ、いつか終わりの時は来る。
 たとえそうだとしても――

「申し訳……ありません」
「それでいいのよ。あれはそんな簡単に手を出していい代物ではないわ」

 その言葉が自分ではない誰かに言っているような気がして、鈴仙は一人の少女の姿を思い出だしていた。
 輝夜や永琳と違い、自らの意思とは関係なく永遠の時を手に入れてしまった彼女が、果たしてこれまでにどんな道を辿ってきたのか、想像する事すらも叶わない。
 ふと、今まですぐ側にあった気配がいつの間にかなくなっている事に気付いて部屋の中を見回すと、いつの間に立ち上がっていたのか、丁度輝夜が廊下側の襖に手をかけるところだった。

「姫、どちらへ?」
「散歩。すぐ戻るわ。永琳にもそう言っておいて」
「ならば、私も玄関までお見送りを――」
「たかが散歩に行くのにそんな大層な事をしなくてもいいのよ。それに貴女には今は今しかないのでしょう? なら私なんかじゃなくて、もっと相手をするに相応しい者がいるでしょうに」
「……?」
「ああ見えて結構脆いのよ、誰かさんは」

 最後に振り返ってくすりと微笑むと、そのまま音も無く襖を閉めて輝夜は部屋を後にした。
 残された鈴仙といえば、最初この部屋に来た時と同じように困惑顔のまま今言われた言葉の意味を考えあぐねていた。

「脆い? あれが?」

 その言葉を縁側の下から伸びた一対の白い耳が聞いていた事を、鈴仙は知らない。



    ∽



「常もなき 夏の草葉に置く露を 命とたのむ蝉のはかなさ ……誰の歌だったかしらね」

 先ほどまでの雨が嘘だったかのように、今の空には初夏の青空が広がっていた。
 午後も過ぎた頃、遠くに聞こえる鳥のさえずりと、風に吹かれて揺れる葉の音だけが聞こえた竹林を抜けてみれば、耳に届いたのはアマガエルでも鳥でもなく、蝉の大合唱。
 今日は朝からずっと雨が降っていた所為か、それとも午前中に鳴けなかった腹いせか、この時間だというのにまだクマゼミの声もあちこちに聞こえている。
 かと思えば、少しばかり気の早いアブラゼミの声も混ざり、一見すれば余計に暑さを感じさせそうなそれらの声も、その一つ一つに丁寧に耳を傾けてみれば逆に涼しくもなってくる。
 蓬莱人などではない、ただの人間から見たとしてもあまりに短い一夏という期間。
 土の下、闇の中で何年も孤独に生きてきた蝉達がその生涯で最も輝ける季節。
 ならばこそ、聞こえてくるこの声はこんなにも力強く、そして儚いのだろうか。

「でもまぁ、暑い事に変わりはないのだけれど」

 流石に外で着物を引き摺る訳にもいかないので、歩きやすいように裾の短い――それでも足首まで隠れているが――着物に変えてきたのだが、やはりこうして地に足を着けて歩くのはやはりいいものだと、そう思った。
 足をくすぐる夏草の中、歩くたびに大小様々な虫が飛び跳ねていく。
 雨の間ずっと葉の裏でじっとしていたのだろうそれらもまた初夏の陽光の下に力強く。
 草原を波立たせる風に吹き上げられる髪を押さえてみれば、どこからか聞こえてきたのは沢の音。
 水の流れる軽やかな音の中に何か別の音が聞こえたような気がして、輝夜はそちらへと足を向けた。

「――あら?」
「――お?」

 そうして辿り着いた土手の上から見下ろしてみると、幅二丈半ほどの小川の中ほどから一人の少女が同じように輝夜の方を見上げていた。
 濡れないように膝上辺りで結われたスカートから伸びる細い足は脛の辺りまで水に浸かり、何か水中の物を掴もうとしていたのか、屈んだ上体から垂れる金の髪は水面に反射する陽光に輝いていた。
 輝夜がふと足下の川岸に目を向けてみれば、彼女の物であろう三角帽子と箒が一見無造作に置いてある。
 それを見て、輝夜はようやく納得がいったという風にふむと一つ頷くと、ゆっくりと土手を下っていった。

「誰かと思えば、いつかの黒白じゃない。今は考古学者の時間?」
「お前のその目は物が見えていないのか? 今はまだ昼だ。よって私は魔法使いだぜ」
「ええ、知ってるわ」

 そう言って輝夜が袖を口元に当てて小さく肩を震わすと、少女――魔理沙は少し困ったように、むぅ、と唸った。

「それで、その魔法使いさんは今は一人で川遊び中なのかしら?」

 土手を下りて、川岸に立った輝夜が変わらずにくすくすと笑いながら魔理沙の方を見る。細められた両の目は本当に楽しそうに笑っているようだった。
 それを見て、魔理沙もふぅ、と一息つくと屈めていた上体を起こして両手を大きく上へと伸ばし、続いて左へ、右へと体を捻る。その度に背骨がなんとも小気味のいい音を立ててくれた。

「年寄りみたいよ?」
「さっきから失礼な事ばかり言う奴だな。少なくともお前よりは絶対に若いぜ。ついでにこれは川遊びなんかじゃない。生きるか死ぬかの攻防戦なんだ」
「あら、私は死なないわよ?」
「なんだ、お前も晩の食卓に並べられたいのか?」
「流石にそんな経験はないけど……ああ、でも面白そうね。私は極上よ。特に肝とか」
「肝か」
「肝よ」
「不老不死に興味が無い、と言ったら嘘になるが、人間の肝はちょっとなぁ」
「あら残念」

 そうして今度は本当に残念そうに、頬に片手を当てて深い溜息を漏らす輝夜を他所に、魔理沙は何かに気付いたように足下を見ると、ゆっくりと腰を屈めて暫くそのまま。そして構えた右手を一気に水中へと潜り込ませた。
 しかし、再び水中から出てきた右手には何もなかった。

「あー……見ろ、お前の所為で晩御飯に逃げられたじゃないか」
「私は何もしてないわよ」

 いやお前の所為だ、と再度呟くと、魔理沙はまた腰を屈めたまま水の中を睨みながらゆっくりと川の中を進んでいった。
 暫くその様子を眺めていた輝夜だったか、魔理沙が同じように二度、三度と獲物を捕まえ損ねた頃には次第に暇になってきたのか、傍らに置いてあった黒い帽子を拾うと、徐に被ってみた。

「どう? 似合うかしら?」

 少し離れたところで魔理沙が面倒くさそうに振り向くと、これまた面倒くさそうに片手で頭を掻いていた。

「人の物を勝手に拝借するのはいただけないな」
「墓泥棒に言われたくはないわね」
「まぁ似合ってるんじゃないか? 私には敵わないけどな」

 それはそうだ、と輝夜は思う。
 最初にここで見た時、帽子が無かっただけで誰だか解らなかったほどなのだ。
 見る人が見れば、どんなに遠くから見てもこの帽子だけでそれが彼女だと判別できるだろう。
 逆に言えば帽子が無ければ解らないという事なのだが、それは言わないお約束というもの。

「そういえば永琳も何か被ってるし、イナバ達は耳があるし、あいつもリボンなんてしてたわねぇ……私も何か被ろうかしら?」

 まだ雨露の残る草の上に腰を下ろして黒い三角帽子を元あった場所に置きながらふとそんな事を呟くと「リボンとかどうだ? 青いやつ」という声が聞こえてきた。
 輝夜が見上げてみると、ようやく獲物を仕留める事が出来たのか、そこには手の中で暴れる魚が逃げないように押さえる魔理沙の姿があった。
 そして川岸にまでたどり着くと、そのまますぐ足下の水の中へと魚を落とし込む。
 今まで気付いてなかったが、そこは川の流れから隔離されるように石が並び詰まれていて、即席の水槽のようにもなっていた。

「あら……見た事のない魚ね。なんていうのかしら?」
「さぁ? そういえば私も名前は知らないなぁ」

 輝夜がもう一度、囲いの中に泳いでいる魚をまじまじと見る。
 既に捕まえていたものもあったのだろう、全体的に灰色がかった魚が三匹、流れの無くなった水の中に佇む様は少しばかり退屈そうにも見えた。

「五、六寸といったところかしらね。見た感じ国鱒にも見えるけど」

 ふむ、と左手を顎に当てて頷くと「なんだ、詳しいな?」と魔理沙も一緒に囲いの中を覗き込んだ。
 しかし輝夜はそれに反応する事無く、更に目を凝らすように水中の魚を見ると少し困ったような顔をした。

「でも国鱒はもう少し大きいし、なによりこんな場所にはいないわ」
「そうなのか?」
「淡水魚でももっと深い所。そうね……あの紅い館の周りの湖、あれがどの程度の深さなのかは知らないけれど、あれよりももっと深いところ、でしょうね」
「へぇ……よし、今日からお前を魚姫と呼んでやろう」
「……遠慮しておくわ」

 少し疲れたように首を振る輝夜に、魔理沙は笑いながら背を向けた。

「まだ獲るの?」
「あと二、三匹ってところかな」
「随分と食べるのね?」

 そう訊ねると、魔理沙は振り返らずに川中へと進みながら「んー?」とだけ答えた。
 中々いい場所が見つからないのか、しきりにあちらへこちらへと動き回っているその姿は、やはり狩りというよりも水遊びをしている少女のようにも見えてしまう。

「霊夢の分もあるからなぁ」
「あら、お裾分け?」
「いや、今日は神社で晩飯だ。で、あいつが山菜係。私は魚係という訳だ。残った分は干物行きだな」
「……仲がいいのね」

 ちょっと意外な事の真相に輝夜がくすくすと笑っていると、川の中を詮索していた魔理沙の足がぴたりと止まった。
 その様子を見るに、どうやらそういった事を言われるのはあまり慣れていないようだ。
 これは案外面白い事を知ったのかもしれない、などと考えていると、今度はばちゃばちゃと水音を立てて魔理沙が川上の方へと遠ざかっていった。

「……可愛いわねぇ」

 ふと上を見上げてみれば、まだまだ青い空も西に向かって次第に赤く、今日という一日の役目を終えようとしている太陽が最後の一仕事だとでもいうように、真っ赤に燃えていた。
 立ち上がってみれば、自分の足下から伸びる影も向こう岸に届きそうなほど。
 少し前までは夕焼け空など広がる暇もなくすぐに夜が降りてきていたものだが、もう季節は春も過ぎて、これからはいよいよ夏も本格的になってくるのだろう。
 そんな事を思っていると、魔理沙が走っていった川上の方から何かが水面に衝突したのではないかというような、そんな大きな水音と共にこれまた大きな水柱が昇っていた。

「あらら、まぁ川の中をあんな勢いで走ったら転ぶわよねぇ……」

 びしょ濡れになったであろう魔理沙が戻ってくるのを待っていてもいいのだが、流石にそれも可哀相かと、輝夜はいよいよ暮れてきた夕日に照らされて金色に輝く川に背を向けると、来た時と同じようにゆっくりと土手を上がっていった。
 そのまま帰ろうかとも思ったが、まだもう少しこの金色に染まった世界を見ていたくて、ただ当てもなく夕日が山の裾に沈んでいく様を見ながら川沿いの道を歩いた。
 遠い昔、今も空に浮かんでいるあの場所にいた頃には見る事すら叶わなかった金色の世界。
 最初竹林から出てきた時にはあれほど鳴いていてた蝉たちも、今はどこからか蜩の声が聞こえてくるばかり。
 空も、大地も、草木も、全てが金色に染まった中でカナカナと鳴くその声がやけに寂しそうで。
 だからだろうか、輝夜はふと立ち止まると土手の下を変わらずに流れる川に目を向けた。
 夜にもなれば、ここにも多くの蛍が飛びかうのだろう。
 そのまま川下の方へと視線を移していけば、遠くに小さな橋と、いつの間にか正面にきていた夕日が見えた。
 十字路になっているそこは、右へ歩いて橋を渡ればすぐにでも人の住む里に着く。
 逆に左へ行けば、そのまま竹林に戻る事も出来る道。

「ちょうどいいわ。あそこから帰りましょうか」

 そう思って再び歩き出したその足は、しかしすぐに止められた。
 よくよく見てみれば、橋の上には人の影。
 逆光になってその姿は確認出来ないが、もし里の者であれば、問題ないとはいえわざわざ自分の姿を晒すのも少々躊躇われる。
 別に先に見える道を帰ろうが、ここまで来た道を引き返そうが、距離的に変わる訳でもない。
 ならばと夕日に背を向けたところで、後ろから声をかけられたような気がしてまた振り返った。
 すると、先ほどの十字路の左側からまた影が一つ、走ってくるのが見てとれた。
 なるほど、さっきの橋の上で待ち合わせという訳ね、と輝夜がくすりと笑う。

「それにしても、あちらから人が来るなんて。物好きな人間も居るものね」

 さもすれば、それはちょっとした好奇心だったのだろうか。
 確かめるように十字路の左手側から走ってきた影を見て、輝夜の顔から笑みが消えた。
 昼間に出会った魔法使い、いつも被っている大きな帽子は遠くからでもそれが彼女だと教えてくれる。
 見慣れた者であれば、遠く離れていても、例え影しか見えなかったとしても、ちょっとした事でそれが誰だか解ってしまうもの。
 頭の上に大きなリボンが一つ、後ろになびく髪にはいくつかの小さなリボン。
 それだけではない。その一挙手一投足が、それが彼女であると輝夜に教えている。

「そういう事……ね」

 橋の上で落ち合った二人は、何かを話しているのだろうか、暫くそこから動かなかった。
 別に何かある訳でもない。
 顔見知りと解った以上、先の道、妹紅が出てきた道を通って帰ってもいいはずなのだ。
 でも、何故だか足は前に進もうとしてくれなくて、だから輝夜は改めて金色の夕日に背を向けた。
 一歩、二歩、歩いてきた道をゆっくりと戻りながら、同じくゆっくりと輝夜が歌う。

「ほ、ほ、ほーたる来い。こっちのみーずはあーまいぞ。そっちのみーずは……」

 もう一度後ろを振り返って見てみれば、橋を渡った向こう岸を並んで歩く二人の姿。
 いよいよ沈んでいこうかという夕日によって金色に染められた世界の中、同じように金色に輝く二人の長い蒼銀の髪がゆらゆらと揺れていた。

「そっちのみーずもあーまいぞ……?」

 自分の足元から伸びる、長い永い影一つ。
 見上げた空は、まだこの時を終わらせたくないかのように紫色が頑張っていた。

「……帰ろっと」

 その小さな呟きも、寂しげに鳴くヒグラシの声の中に消えて。
 誰もいなくなった道端で鈴虫が一匹、転がるような声で鳴いていた。
創想話作品集31に投稿したものでした。
なんか投稿時とタイトル変わってるけど、気にしたら負けです。

どういった意図でこれを書いたのかは正直サッパリと忘れておりますが、
夏っぽい話が書きたかったんだろうな、という事はどことなく感じられます。

そんな話。
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