―――ボクの事が知りたい?
ふぅん、案外キミも物好きなんだねぇ。知ってどうするのさ?
……ただの好奇心? あ、そう。ふぅん。
まぁいいんだけどね、ボクも割と時間を持て余してる性質だからさ。
折角だから聞かせてあげるよ。
その間は、キミの時間はボクのものだ。……なんちゃって。ふふ。
さて……そう、だね。
いつからここにいたのか、とか。
なんでここにいるのか、だとか。
概ねそんな事はどうでも良い事だったんだ。これは今もそう思ってる。
ボクは本が大好きで、ここには本が一杯あって、多分ボクが産まれた経緯も、ここの力のある本が干渉しあった偶然の結果なんじゃないかなって思う。もしくは、ボクなんかよりずっと力のある悪魔が近くに居るせいもあるかもね。それも複数。
でも、結局のところ詳しい事は分からない。それに知ろうとも思わない。
自分の起源に興味を持ったところで、他に似た境遇の者がいないんだから、どうせ自己満足にしかならないし。それに、そんな場合で分が知ろうと思っていないのだから、やっぱりこんな事はどうでもいいやって感じる。
まぁいいや。
今ボクがボクであるのなら、それ以後とかそれ以前とかは本当にどうだっていい。
だって、ボクがボクなんだから。
そう思ってた。
そう思ってたところへ、一つの変化があった。
ここは気が付いたらボクだけの場所ではなくなっていたんだ。
いつの間にか、さも当然のように、始めからそうであったかのように、ここの一画に陣取って陰気な顔を本に向ける彼女がいた。
正直、邪魔だった。
最初の内は本当にそう思ってた。
何せ彼女はボクの(と言って差し支えない筈だよね?)本を手当たり次第に読み出したんだから。
もう冗談じゃないよ。
とんでもない事だよ。
ここはボクの(と言っても問題無いと思う)場所なんだから、ボクの本を読みたいんならボクを通してくれなきゃあ困る。そして当然許可なんてするつもりは無い。
だってそうでしょ? 彼女はもう存在そのものが邪魔なんだから。可及的速やかに退出願うのはとても自然な事だと思うんだ。
で、言ってやったんだよ。
「あんたに何の権限があってここの本を読んでるのさ!」
ってね。
そうしたら彼女、何て答えたと思う?
「私は館の主にここを好きに使って良いって言われているからそのようにしているのだけれど」
とか、聞き取りにくいボソボソした声で、しかも早口で言ったんだよ。
その口調から魔法使いだって言うのは分かったんだけど、でももう本当にただ会話をするつもりがないのかと一瞬思っちゃったくらい酷かった。
しかも彼女、言うだけ言った後更に、
「それで? あなたは何?」
だなんて言ってくれちゃって。
それはこっちの台詞だよ!
思わずそう怒鳴るところだったね。彼女ったら魔法使いだって推測出来る以外は全く訳が分からないんだもの。
だけどボクは怒鳴るどころか、返事も出来なかったんだ。
何せ問に対する答えを持ち合わせていなかったものだから。
ボク一人だけならそんな事はどうでもいいで済むんだけど、やっぱり他に誰かがいる場合、どうでもいいで済ますにはちょっと難しい。
だって彼女は魔法使い。
じゃあボクは? ボクって何? なんだっけ? なんだろう?
悪魔なのは間違いなさそうなんだけれど、ああでも精霊だとか妖精だとかの類かも知れないし、妖怪と言う線も考えられる。身体的特徴と、立地の関係上からやっぱり悪魔の率が一番高いし、それが妥当なんだろうと思うけれども。
ボクが答えあぐねて考えている間、何が面白いのか彼女はずっとボクの事を見つめていた。
或いは単純に答えを待っていただけなのかもしれないし、或いはポーズだけで頭の中は別の事で埋まっていたのかもしれないけれど。
とにかく、どうにかこうにか思考を捻って搾って半ば無理矢理に出し答えは、でも割と適当だったんじゃないかなって思う。
「……ボクは……小悪魔、だよ」
たったそれだけを言うのにすら必死なボクに対し、彼女ったら、
「そう。よろしく」
とだけ。本当に素っ気無かったね。
以後彼女はふいと顔を逸らして、ボクの事なんかまるで眼中に無いみたいに本に没頭してしまったのだけれど、でも……何て言ったらいいかな。
その時点で、ボクは彼女の事を邪魔だ何て思わなくなってたんだよ。何故か。不思議な事にね。
ただ確かな事は、その時からボクはボクの事を小悪魔だって思うようになった。悪魔だけど、悪魔という程力がある訳でもない。だけど悪魔は悪魔。それ故の小悪魔。小という字を使ったっていうのは、ボクながらとても巧いって思うよ。……自画自賛? ほっといて。
ともかく、ボクは小悪魔になった。それまでが何だったのかは知らないけど、それからは小悪魔になったんだよ。
それで、どうせだから、と彼女の事を観察する事にした。
ボクながら結構辛抱強かったと思うよ?
ええと……そう、大体七回目くらいの飽きを経験した辺りで、彼女は一冊の魔導書を書き上げたんだ。
この時のボクの喜びようったら、辺り構わず喚いて飛び跳ねてどんな形でも構わないから湧き上がったエネルギーを消費しようと躍起になる程だったよ。彼女にはとてもうるさがられたけど。
うふふ、でも仕方ないと思わないかい? だって本が増えたんだよ?
しかもさ、彼女は魔法使いだから、一冊だけでなく今後も増えていく事は明白ときた。
ここに在るボクという小悪魔がそれを喜ばない訳無いじゃない。ねぇ?
現に、ここは彼女の手による魔導書によってとっても充実した場所になってる。そしてそれは相変わらず現在進行形なのさ。
ボクの感心はもう専ら彼女が次の魔導書をいつ書き上げるかという所に集約されてたりするしね。ふふ。ちなみに後一週間くらいで新しいのが完成しそうなんだよ。うふふふ。
―――と、こんな感じかな? ちょっと脱線してしまったけれども。
どうだった? 好奇心は満たされたかな?
え? 足りない? 全然?
キミは一体何を言っているんだい。ボクが小悪魔となった事は分かったじゃないか。
知りたい事をちゃんと特定しなかったキミがいけないのさ。悪魔とのやりとりは詳細を明確にしておかないといけないって話だね。勉強になったろう?
ま、ボクとしてもこの話はあまり面白いとは思ってないけれども。だってボクの事なんてボクが知ってて当たり前だもの。
でも、だからこそ丁度いいと思わないかい?
あ、それでさ? ちょっと気になる事が出来たんだけど、良いかな? 聞いても。
……ふふ、ありがとう。
それじゃあ一つだけでいいや。キミの事が聞きたいんだけどさ。
キミは、一体何なのかな?
ふぅん、案外キミも物好きなんだねぇ。知ってどうするのさ?
……ただの好奇心? あ、そう。ふぅん。
まぁいいんだけどね、ボクも割と時間を持て余してる性質だからさ。
折角だから聞かせてあげるよ。
その間は、キミの時間はボクのものだ。……なんちゃって。ふふ。
さて……そう、だね。
いつからここにいたのか、とか。
なんでここにいるのか、だとか。
概ねそんな事はどうでも良い事だったんだ。これは今もそう思ってる。
ボクは本が大好きで、ここには本が一杯あって、多分ボクが産まれた経緯も、ここの力のある本が干渉しあった偶然の結果なんじゃないかなって思う。もしくは、ボクなんかよりずっと力のある悪魔が近くに居るせいもあるかもね。それも複数。
でも、結局のところ詳しい事は分からない。それに知ろうとも思わない。
自分の起源に興味を持ったところで、他に似た境遇の者がいないんだから、どうせ自己満足にしかならないし。それに、そんな場合で分が知ろうと思っていないのだから、やっぱりこんな事はどうでもいいやって感じる。
まぁいいや。
今ボクがボクであるのなら、それ以後とかそれ以前とかは本当にどうだっていい。
だって、ボクがボクなんだから。
そう思ってた。
そう思ってたところへ、一つの変化があった。
ここは気が付いたらボクだけの場所ではなくなっていたんだ。
いつの間にか、さも当然のように、始めからそうであったかのように、ここの一画に陣取って陰気な顔を本に向ける彼女がいた。
正直、邪魔だった。
最初の内は本当にそう思ってた。
何せ彼女はボクの(と言って差し支えない筈だよね?)本を手当たり次第に読み出したんだから。
もう冗談じゃないよ。
とんでもない事だよ。
ここはボクの(と言っても問題無いと思う)場所なんだから、ボクの本を読みたいんならボクを通してくれなきゃあ困る。そして当然許可なんてするつもりは無い。
だってそうでしょ? 彼女はもう存在そのものが邪魔なんだから。可及的速やかに退出願うのはとても自然な事だと思うんだ。
で、言ってやったんだよ。
「あんたに何の権限があってここの本を読んでるのさ!」
ってね。
そうしたら彼女、何て答えたと思う?
「私は館の主にここを好きに使って良いって言われているからそのようにしているのだけれど」
とか、聞き取りにくいボソボソした声で、しかも早口で言ったんだよ。
その口調から魔法使いだって言うのは分かったんだけど、でももう本当にただ会話をするつもりがないのかと一瞬思っちゃったくらい酷かった。
しかも彼女、言うだけ言った後更に、
「それで? あなたは何?」
だなんて言ってくれちゃって。
それはこっちの台詞だよ!
思わずそう怒鳴るところだったね。彼女ったら魔法使いだって推測出来る以外は全く訳が分からないんだもの。
だけどボクは怒鳴るどころか、返事も出来なかったんだ。
何せ問に対する答えを持ち合わせていなかったものだから。
ボク一人だけならそんな事はどうでもいいで済むんだけど、やっぱり他に誰かがいる場合、どうでもいいで済ますにはちょっと難しい。
だって彼女は魔法使い。
じゃあボクは? ボクって何? なんだっけ? なんだろう?
悪魔なのは間違いなさそうなんだけれど、ああでも精霊だとか妖精だとかの類かも知れないし、妖怪と言う線も考えられる。身体的特徴と、立地の関係上からやっぱり悪魔の率が一番高いし、それが妥当なんだろうと思うけれども。
ボクが答えあぐねて考えている間、何が面白いのか彼女はずっとボクの事を見つめていた。
或いは単純に答えを待っていただけなのかもしれないし、或いはポーズだけで頭の中は別の事で埋まっていたのかもしれないけれど。
とにかく、どうにかこうにか思考を捻って搾って半ば無理矢理に出し答えは、でも割と適当だったんじゃないかなって思う。
「……ボクは……小悪魔、だよ」
たったそれだけを言うのにすら必死なボクに対し、彼女ったら、
「そう。よろしく」
とだけ。本当に素っ気無かったね。
以後彼女はふいと顔を逸らして、ボクの事なんかまるで眼中に無いみたいに本に没頭してしまったのだけれど、でも……何て言ったらいいかな。
その時点で、ボクは彼女の事を邪魔だ何て思わなくなってたんだよ。何故か。不思議な事にね。
ただ確かな事は、その時からボクはボクの事を小悪魔だって思うようになった。悪魔だけど、悪魔という程力がある訳でもない。だけど悪魔は悪魔。それ故の小悪魔。小という字を使ったっていうのは、ボクながらとても巧いって思うよ。……自画自賛? ほっといて。
ともかく、ボクは小悪魔になった。それまでが何だったのかは知らないけど、それからは小悪魔になったんだよ。
それで、どうせだから、と彼女の事を観察する事にした。
ボクながら結構辛抱強かったと思うよ?
ええと……そう、大体七回目くらいの飽きを経験した辺りで、彼女は一冊の魔導書を書き上げたんだ。
この時のボクの喜びようったら、辺り構わず喚いて飛び跳ねてどんな形でも構わないから湧き上がったエネルギーを消費しようと躍起になる程だったよ。彼女にはとてもうるさがられたけど。
うふふ、でも仕方ないと思わないかい? だって本が増えたんだよ?
しかもさ、彼女は魔法使いだから、一冊だけでなく今後も増えていく事は明白ときた。
ここに在るボクという小悪魔がそれを喜ばない訳無いじゃない。ねぇ?
現に、ここは彼女の手による魔導書によってとっても充実した場所になってる。そしてそれは相変わらず現在進行形なのさ。
ボクの感心はもう専ら彼女が次の魔導書をいつ書き上げるかという所に集約されてたりするしね。ふふ。ちなみに後一週間くらいで新しいのが完成しそうなんだよ。うふふふ。
―――と、こんな感じかな? ちょっと脱線してしまったけれども。
どうだった? 好奇心は満たされたかな?
え? 足りない? 全然?
キミは一体何を言っているんだい。ボクが小悪魔となった事は分かったじゃないか。
知りたい事をちゃんと特定しなかったキミがいけないのさ。悪魔とのやりとりは詳細を明確にしておかないといけないって話だね。勉強になったろう?
ま、ボクとしてもこの話はあまり面白いとは思ってないけれども。だってボクの事なんてボクが知ってて当たり前だもの。
でも、だからこそ丁度いいと思わないかい?
あ、それでさ? ちょっと気になる事が出来たんだけど、良いかな? 聞いても。
……ふふ、ありがとう。
それじゃあ一つだけでいいや。キミの事が聞きたいんだけどさ。
キミは、一体何なのかな?