人類初の恒星間航行は戦争の引き金でしかなかった。
探査衛星である「サルーイン」号が未知なる生物に破壊された事に端を発する謎の地球外生命体は四体が確認された。
いずれも人の知性には理解できぬ姿はどこか美しく、禍々しい。
「四魔貴族」と称されたそれぞれの地球外生命体と、人類の英知を結集した史上初の宇宙艦隊「スクウェア・フェニックス」軍の戦いはしかし、地球側の敗北が近付いていた――
スクウェア・フェニックス軍総司令官ノブオ・ウエマーツは志半ばにて軍を退き、今では小さな払い下げ軍艦である「イトケン」号の艦長として真空の海を旅していた。
しかしこのイトケン号は艦長であるノブオ・ウエマーツにより多額の資金を投入され、対四魔貴族専用戦闘艦として生まれ変わろうとしていたのだ。
船体や武装などが取り付けられ、あとは偽装が済めばイトケン号は生まれ変わる。
「艦長」
イトケン号を眺めるノブオに語りかける副長の目は希望に輝いている。
「イトケン号で……勝てますかね」
口調自体は質問の形を取っていない。
まるで自分に言い聞かせるような口ぶりにノブオ自身も自らに言い聞かせるように答える。
「勝てるさ……例えスクウェア・フェニックス軍が負けようとも、否、勝てないと判断したからこそのイトケン号の改造だ」
今この時でさえも軍は四魔貴族と呼ばれる地球外生命体と激戦を繰り広げている。
が、恐らく勝てないだろうとノブオは見ている。
大軍勢の艦隊を並べ、艦隊運用を重視しているスクウェア・フェニックス軍のやり方はある意味では正しい。だがそれでは四魔貴族達には勝てないのだ。
旗艦である「クエスト・オブ・ドラゴニカ」を率いるホリ・ユージ提督は辣腕であるが、彼とて大艦隊全てを采配できるわけではない。
当然、末端部分から切り崩されていくのはノブオの目からでも明らかであった。
「副長、忘れてもらっては困る。我々はその為に軍を離れ、こうして小惑星に隠れ、乾坤一擲を狙っているのだからな……」
「ハッ! 理解しています。ですが軍でも使用されていないこの兵器群を見ますと、今すぐにでもこれらを持って駆けつけたい気分にもなるのです……」
悔しそうに副長が眼下のイトケン号を見る。丸みを帯びながらも全体的には鋭利であり、黒を基調とした艦体には、今も様々な武装が積み込まれていく。
「間に合ってくれよ……これが地球を救う切り札になるかもしれんのだ」
自らの愛機となるであろう戦艦にそう問い掛ける。
しかし、世の中は絶えず動いている。そうは問屋が卸さない、というのは地球の外でも通じるのだ。
突如振動が小惑星「ナンテンドー」を襲う。
一瞬にして照明が切り替わり、非常事態を示すランプが赤く明滅する。
ヴィー! ヴィー!
けたたましく鳴り響くサイレンと共に部下の一人が訪れる。
「艦長!」
「何事だ!」
「この小惑星が攻撃されています!」
「何だと! 直ちに護衛の部隊を出せ! 場合によってはイトケンを出す……乗組員を招集しておけ!」
「はっ!」
ノブオの命令を抱えて部下が走り出す。急激に慌しくなったナンテンドー内をノブオも走り出した。
ナンテンドーから護衛艦隊が素早く発進される。無限の闇に浮かんでいるのは、かの四魔貴族ソヌーであった。
「ソヌーだと……なんでこんな大物がここにっ」
そう言った護衛艦の一つであるクローバーが爆光に消える。
クローバーとともにジョー、アマテラスが共に消えたが、どうやらアマテラスだけは脱出が間に合ったようだ。
元々このナンテンドーに大した軍は残っていない。
四魔貴族の中でも一際火力の高いソヌーがいる以上、どのような艦を出しても時間稼ぎにしかならないだろう。
自ら乗り込んだイトケン号のブリッジでは続々と撃墜報告が上がってくる。
決断すべき時はすぐそこにあった。
「カプリコーン、撃墜!」
「くそ! こんな時にユカワ艦隊がいてくれれば……」
「キャストドリーム号の悪夢は忘れろ! プレイディアもだ!艦長、どうします?」
次々とブリッジ上がる報告を聞きながらノブオは深呼吸をする。
「イトケン号を出す。出港準備は出来ているな?」
「ですが、まだ擬装が済んでいません!」
ノブオの声にオペレーターが答える。
「構わん、例のトレーラーは積み込んである。最終兵器の充填をしながらハッチを開け」
ブリッジに戦慄が走る。長年温め続けた最終兵器を使う――それはノブオ艦長が考案した大出力範囲兵器である。充填に時間はかかり、一回の戦闘では一度の使用が限度である。それをイトケン号の発進とともに撃とうというのだ。
にわかに活気付いたブリッジは各種指令を出し、情報を収集する。こうしている間にも外ではナンテンドーが狙われ、ダメージを負っているのだ。
「ドッグ内はすでに真空状態です。あとはハッチを開けるだけです」
「ヌンチャック・エンジン出力80%……最終砲、並びに航行にはギリギリですがいけます!」
「これよりイトケン号は緊急発進する! ハッチ開け!」
沈黙するノブオの前で黒い宇宙が広がっていく。
彼方ではすでにナンテンドー艦隊の六割が消耗しており、戦線を抜けたソヌーの攻撃が届きはじめているのだ。
ハッチが開ききり、ドッグ内には甲高いエンジン音が響く。
ノブオは静かに口を開いた。
「諸君、準備は万全と言い難い。しかしながら我々とイトケン号の能力を持ってすれば目の前のソヌーやペケ・ボックスとも充分に渡り合えるはずだ……これが我々と、そして人類の最後の希望である。必ずや平和をもたらすために今一度、諸君らの命を預かる……」
誰も何も言わずに、そして希望を持ってノブオを見つめていた。
「イトケン号発進。並びに即時全砲門をソヌーに。ナンテンドー離脱後に最終兵器を使用し、ソヌーを片付ける。まずはヤツを刺身にしてやろうとするか!」
号令と共にゆっくりとイトケン号がナンテンドーから離れていく。
人類の命運をかけたラスト・ストーリーが始まった――
続かない!
探査衛星である「サルーイン」号が未知なる生物に破壊された事に端を発する謎の地球外生命体は四体が確認された。
いずれも人の知性には理解できぬ姿はどこか美しく、禍々しい。
「四魔貴族」と称されたそれぞれの地球外生命体と、人類の英知を結集した史上初の宇宙艦隊「スクウェア・フェニックス」軍の戦いはしかし、地球側の敗北が近付いていた――
スクウェア・フェニックス軍総司令官ノブオ・ウエマーツは志半ばにて軍を退き、今では小さな払い下げ軍艦である「イトケン」号の艦長として真空の海を旅していた。
しかしこのイトケン号は艦長であるノブオ・ウエマーツにより多額の資金を投入され、対四魔貴族専用戦闘艦として生まれ変わろうとしていたのだ。
船体や武装などが取り付けられ、あとは偽装が済めばイトケン号は生まれ変わる。
「艦長」
イトケン号を眺めるノブオに語りかける副長の目は希望に輝いている。
「イトケン号で……勝てますかね」
口調自体は質問の形を取っていない。
まるで自分に言い聞かせるような口ぶりにノブオ自身も自らに言い聞かせるように答える。
「勝てるさ……例えスクウェア・フェニックス軍が負けようとも、否、勝てないと判断したからこそのイトケン号の改造だ」
今この時でさえも軍は四魔貴族と呼ばれる地球外生命体と激戦を繰り広げている。
が、恐らく勝てないだろうとノブオは見ている。
大軍勢の艦隊を並べ、艦隊運用を重視しているスクウェア・フェニックス軍のやり方はある意味では正しい。だがそれでは四魔貴族達には勝てないのだ。
旗艦である「クエスト・オブ・ドラゴニカ」を率いるホリ・ユージ提督は辣腕であるが、彼とて大艦隊全てを采配できるわけではない。
当然、末端部分から切り崩されていくのはノブオの目からでも明らかであった。
「副長、忘れてもらっては困る。我々はその為に軍を離れ、こうして小惑星に隠れ、乾坤一擲を狙っているのだからな……」
「ハッ! 理解しています。ですが軍でも使用されていないこの兵器群を見ますと、今すぐにでもこれらを持って駆けつけたい気分にもなるのです……」
悔しそうに副長が眼下のイトケン号を見る。丸みを帯びながらも全体的には鋭利であり、黒を基調とした艦体には、今も様々な武装が積み込まれていく。
「間に合ってくれよ……これが地球を救う切り札になるかもしれんのだ」
自らの愛機となるであろう戦艦にそう問い掛ける。
しかし、世の中は絶えず動いている。そうは問屋が卸さない、というのは地球の外でも通じるのだ。
突如振動が小惑星「ナンテンドー」を襲う。
一瞬にして照明が切り替わり、非常事態を示すランプが赤く明滅する。
ヴィー! ヴィー!
けたたましく鳴り響くサイレンと共に部下の一人が訪れる。
「艦長!」
「何事だ!」
「この小惑星が攻撃されています!」
「何だと! 直ちに護衛の部隊を出せ! 場合によってはイトケンを出す……乗組員を招集しておけ!」
「はっ!」
ノブオの命令を抱えて部下が走り出す。急激に慌しくなったナンテンドー内をノブオも走り出した。
ナンテンドーから護衛艦隊が素早く発進される。無限の闇に浮かんでいるのは、かの四魔貴族ソヌーであった。
「ソヌーだと……なんでこんな大物がここにっ」
そう言った護衛艦の一つであるクローバーが爆光に消える。
クローバーとともにジョー、アマテラスが共に消えたが、どうやらアマテラスだけは脱出が間に合ったようだ。
元々このナンテンドーに大した軍は残っていない。
四魔貴族の中でも一際火力の高いソヌーがいる以上、どのような艦を出しても時間稼ぎにしかならないだろう。
自ら乗り込んだイトケン号のブリッジでは続々と撃墜報告が上がってくる。
決断すべき時はすぐそこにあった。
「カプリコーン、撃墜!」
「くそ! こんな時にユカワ艦隊がいてくれれば……」
「キャストドリーム号の悪夢は忘れろ! プレイディアもだ!艦長、どうします?」
次々とブリッジ上がる報告を聞きながらノブオは深呼吸をする。
「イトケン号を出す。出港準備は出来ているな?」
「ですが、まだ擬装が済んでいません!」
ノブオの声にオペレーターが答える。
「構わん、例のトレーラーは積み込んである。最終兵器の充填をしながらハッチを開け」
ブリッジに戦慄が走る。長年温め続けた最終兵器を使う――それはノブオ艦長が考案した大出力範囲兵器である。充填に時間はかかり、一回の戦闘では一度の使用が限度である。それをイトケン号の発進とともに撃とうというのだ。
にわかに活気付いたブリッジは各種指令を出し、情報を収集する。こうしている間にも外ではナンテンドーが狙われ、ダメージを負っているのだ。
「ドッグ内はすでに真空状態です。あとはハッチを開けるだけです」
「ヌンチャック・エンジン出力80%……最終砲、並びに航行にはギリギリですがいけます!」
「これよりイトケン号は緊急発進する! ハッチ開け!」
沈黙するノブオの前で黒い宇宙が広がっていく。
彼方ではすでにナンテンドー艦隊の六割が消耗しており、戦線を抜けたソヌーの攻撃が届きはじめているのだ。
ハッチが開ききり、ドッグ内には甲高いエンジン音が響く。
ノブオは静かに口を開いた。
「諸君、準備は万全と言い難い。しかしながら我々とイトケン号の能力を持ってすれば目の前のソヌーやペケ・ボックスとも充分に渡り合えるはずだ……これが我々と、そして人類の最後の希望である。必ずや平和をもたらすために今一度、諸君らの命を預かる……」
誰も何も言わずに、そして希望を持ってノブオを見つめていた。
「イトケン号発進。並びに即時全砲門をソヌーに。ナンテンドー離脱後に最終兵器を使用し、ソヌーを片付ける。まずはヤツを刺身にしてやろうとするか!」
号令と共にゆっくりとイトケン号がナンテンドーから離れていく。
人類の命運をかけたラスト・ストーリーが始まった――
続かない!