※この作品は、Coolier様にあるプチ東方創想話ミニの作品集11に投稿されていたものです。
実に簡潔な事だと、エリーは気付いていた。
勿論、彼女の隣で同様に正座しているくるみもまた、そう難しい事ではないと分かっていた。
問題なのは、座る彼女達の前方で苛立ちも露につま先をたんとんやっている幽香が分かっていない事である。
「遅い……っ!」
もはや何度目だろうか。
幽香は怒鳴りに近い声でそう言い、その度にエリーとくるみはその怒気に気圧されて身を縮こまらせる。
何故に幽香が苛々しているのか。そして何故にエリーとくるみが巻き込まれる形になっているのか。
後者はまぁ全くもっていつも通りの夢幻館なのでどうでもいい上に、前者については実は複雑でもなんでもない。
顛末はこうである。
幽香が紅魔館にご丁寧にも果たし状を送りつけたのだ。
こんな内容のを。
『前略、紅魔館のおチビさん。
お日柄もよろしい毎日が続いていますが、ああ、貴女にはとんと関係の無い話でしたね。
ともあれ困った事に夢幻館近隣の雑魚妖怪や妖精がすっかり出てこなくなってしまったので、ちょっとそっちの領地を没収したいと考えました。
つきましては、互いの領地を賭けて勝ち抜き戦による三番勝負を申し込みます。
まさか逃げたりなんかしないわよね?
草々』
さて、その果たし状の内容を知ったエリーとくるみは、愉しそうに果たし状を封筒に収める幽香に対し物凄い違和感を禁じえなかった。
今更だが、二人はその時に多少苛められるのを覚悟でその違和感の理由に気付くべきだっただろう。
わざわざ書く内容を口にしながら果たし状を認めた幽香は、本末転倒な事に日時と場所を書いていなかったのだから。
そしてその事に二人が気付いた時には、もうすっかり後の祭りである。
今や既に夜も更けに更け、後ちょっとすれば東の空が白みだしてきそうな時間帯。
幽香としては相手の体質を考慮し、相手が得意とする日没と共に勝負するつもりでたっぷり昼寝をしてきたのに無駄になってお冠である。
エリーとくるみは、多分今頃紅魔館の面々は混乱してるか笑ってるか全く気にしてないかのどれかだろうなぁと考えながら足を痺れさせていた。
夜風に揺れる草の音や遠い木々の擦れる音を聞きながら、二人は主に言い出せない自分等の弱さを心中で嘆く。幽香の苛めにもっとも長く晒されている二人である為に、逆らえばどうなるか、機嫌を損ねたらどうなるかを嫌と言う程思い知っているので意見が出来ないのだ。
しかしこのままでは八つ当たりは必至。
エリーとくるみは目配せをし、どうにか被害を最小限に止める方策を導き出そうと無言の会議を開催した。
「帰る」
即座に閉会した。
つま先の苛立ちリズムを止めた幽香の発言は、声音の低さも相まってエリーとくるみを震え上がらせるのに充分である。
一切二人の方を見る事なく幽香は歩き始め、珍しい事に安堵の息を零しながらエリーとくるみがよっこらせと立ち上がった瞬間。
「え」
「きゃ」
二人が見たのは閃光と爆音の壁。それも凄い勢いで迫ってくるの。
そして二人は大光軸に撥ね飛ばされた。
「…………」
黒焦げになって落下していく二人を見つめ、幽香はやや溜飲が下がった様子で軽く口元に嗤みを浮かべる。
が、すぐに苛立ちが表に出てきてしまい、彼女が夢幻館に帰るまでの間、その瞳が捉えた全ての動物は苛めの対象となった。
大きい者はエント等の樹人族から、小さな者は蟻の巣まで。
満遍なく容赦なく、幽香は衝動のままに全てを苛めていった。
黒焦げになりながらもその凄まじいタフネス振りでどうにか一命を取り留めたエリーとくるみは、遠く聞こえる誰かの悲鳴を聞きながら、静かに詫び続けた。
実に簡潔な事だと、エリーは気付いていた。
勿論、彼女の隣で同様に正座しているくるみもまた、そう難しい事ではないと分かっていた。
問題なのは、座る彼女達の前方で苛立ちも露につま先をたんとんやっている幽香が分かっていない事である。
「遅い……っ!」
もはや何度目だろうか。
幽香は怒鳴りに近い声でそう言い、その度にエリーとくるみはその怒気に気圧されて身を縮こまらせる。
何故に幽香が苛々しているのか。そして何故にエリーとくるみが巻き込まれる形になっているのか。
後者はまぁ全くもっていつも通りの夢幻館なのでどうでもいい上に、前者については実は複雑でもなんでもない。
顛末はこうである。
幽香が紅魔館にご丁寧にも果たし状を送りつけたのだ。
こんな内容のを。
『前略、紅魔館のおチビさん。
お日柄もよろしい毎日が続いていますが、ああ、貴女にはとんと関係の無い話でしたね。
ともあれ困った事に夢幻館近隣の雑魚妖怪や妖精がすっかり出てこなくなってしまったので、ちょっとそっちの領地を没収したいと考えました。
つきましては、互いの領地を賭けて勝ち抜き戦による三番勝負を申し込みます。
まさか逃げたりなんかしないわよね?
草々』
さて、その果たし状の内容を知ったエリーとくるみは、愉しそうに果たし状を封筒に収める幽香に対し物凄い違和感を禁じえなかった。
今更だが、二人はその時に多少苛められるのを覚悟でその違和感の理由に気付くべきだっただろう。
わざわざ書く内容を口にしながら果たし状を認めた幽香は、本末転倒な事に日時と場所を書いていなかったのだから。
そしてその事に二人が気付いた時には、もうすっかり後の祭りである。
今や既に夜も更けに更け、後ちょっとすれば東の空が白みだしてきそうな時間帯。
幽香としては相手の体質を考慮し、相手が得意とする日没と共に勝負するつもりでたっぷり昼寝をしてきたのに無駄になってお冠である。
エリーとくるみは、多分今頃紅魔館の面々は混乱してるか笑ってるか全く気にしてないかのどれかだろうなぁと考えながら足を痺れさせていた。
夜風に揺れる草の音や遠い木々の擦れる音を聞きながら、二人は主に言い出せない自分等の弱さを心中で嘆く。幽香の苛めにもっとも長く晒されている二人である為に、逆らえばどうなるか、機嫌を損ねたらどうなるかを嫌と言う程思い知っているので意見が出来ないのだ。
しかしこのままでは八つ当たりは必至。
エリーとくるみは目配せをし、どうにか被害を最小限に止める方策を導き出そうと無言の会議を開催した。
「帰る」
即座に閉会した。
つま先の苛立ちリズムを止めた幽香の発言は、声音の低さも相まってエリーとくるみを震え上がらせるのに充分である。
一切二人の方を見る事なく幽香は歩き始め、珍しい事に安堵の息を零しながらエリーとくるみがよっこらせと立ち上がった瞬間。
「え」
「きゃ」
二人が見たのは閃光と爆音の壁。それも凄い勢いで迫ってくるの。
そして二人は大光軸に撥ね飛ばされた。
「…………」
黒焦げになって落下していく二人を見つめ、幽香はやや溜飲が下がった様子で軽く口元に嗤みを浮かべる。
が、すぐに苛立ちが表に出てきてしまい、彼女が夢幻館に帰るまでの間、その瞳が捉えた全ての動物は苛めの対象となった。
大きい者はエント等の樹人族から、小さな者は蟻の巣まで。
満遍なく容赦なく、幽香は衝動のままに全てを苛めていった。
黒焦げになりながらもその凄まじいタフネス振りでどうにか一命を取り留めたエリーとくるみは、遠く聞こえる誰かの悲鳴を聞きながら、静かに詫び続けた。