穂積名堂 Web Novel -既刊公開用-

たまにはこんな外道

2010/10/02 01:52:48
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たまにはこんな外道

河瀬 圭
 私こと風見幽香は暇だった。これといって異変を起こすわけでもないし、のんびりとした毎日は悪くないが、それでも刺激に欠ける。
 いつも通りに弱っちいけども威勢だけがよろしいバカな氷精の足首にツタを絡ませて、空中から地上にひきずり落としながらやっぱり暇ねぇと呟いてみたけど、だからといってそれで退屈が紛れるわけでもない。
 ……ビターンという音はしたけれど。
 さんざんに苛めた氷精を解放してやると、昼寝でもしようかと最近気に入った秘密の場所へと足を向ける。
 しかしそこには先客がいた。小さな、丸い灰色の生物があろうことか大妖怪であるところのこの私に断りもなく、堂々と丸々と寝っ転がっているではないか。
 魔法の森の外れ、白黒魔法使いや人形魔法使いの住処からも遠い、ぽっかりと開いた場所の、それも日当たりのよい数時間だけのオアシス。その場所に鎮座ましましていた生物を見て、どういうわけだか私は興味をそそられた。
 近づいてみると、どうやら生きているらしく、呼吸の為に毛皮に包まれた身体が僅かに上下している。
 まいったな、そこは私の場所なんだけど……と声にならない呟きを聞いても、その生物は動こうともしない。
 こちらの気配に気付いていないのだろう。規則正しく上下する小さな毛皮の固まりを見て、私は心を決めた。
 徹底的に苛めてやる。
 ボソっと呟くと乱雑に草をかきわけ、足音がわざと立つようにガサガサと近づきながら、臨戦体勢の殺気を全開でぶつける。さすがに異常事態に気がついたのか、かすかに生物の背中がピクリとうごめいた。
 野生動物特有のカンの良さからか、逃げようと起き上がった生物の動きはしかしながら緩慢であり、また逃がすような私でもない。
 あっという間に私の腕に収まってしまうと、その生物は諦めたかのようにぐったりとしてしまった。
 まずは拉致成功。お楽しみはこれからだ。
 その後は館に取って返し、入り口で寝こけている番犬……じゃない門番に蹴りを見舞って叩き起こす。
 主が起きてるってーのに自分一人で職務を放棄して寝こけるとは何事か、こいつは。
 私は軽く笑顔でクビだけにされたくなかったらとっとと準備をしろと言いつけ、そのまま館の中へ。
 まっすぐに向かった部屋で、お湯を張った桶に生物を放り込む。やたらと暴れ出す生物を力で押さえつけ、さらには石のような硬さの物体をこすりつけ、物体から出た泡をひたすら身体に塗りこんでやる。
 トドメとばかりにお湯を真上からドバドバとかけ、泡を流してやると、反撃のつもりなのかその生物は弱々しげに身体をふるって雫を飛ばしてくる。しかしそんな弾幕なんていくら当たっても私にはなんら影響もない。
 これぐらいで音をあげてもらっては困る。
 私はお湯責めをやめると、今度は布でもってグシャグシャにしてやった。身体中の水分が抜けてしまうほど布で揉みくちゃにしてやると、バランスが取れなくなったのか、そいつはヨタヨタと抜け出した。
 灰色だった美しい毛皮を、嫌味な白に染め上げた私はまだ容赦しない。
 いまだ視点の定まらないような生物の、おそらく急所であろう首をつまみ、腕の中で羽交い絞めにしてやると、さらに別室へと連れて行く。
 どちらにしようか迷いました、とか全くもってわかってない言葉を吐き出した番犬……じゃない門番が用意した、生暖かくて乳臭い液体と、細かく砕かれ、まったくもって私には食べられないような朝食の魚の残飯を食べさせる。
 その後は棒の先端にいくつもの針状の突起がついた物を毛皮に突きたて、さらに擦るという残虐行為を繰り返す。
 いい加減疲れてきたのか、目をつむり、ぐったりとしたところで、ボロ布をしきつめた簡素で質素で無味乾燥な監禁部屋に放り込み、今日のところは終わりにしてやることにした。
 それから幾日かたつと、監禁された状況をよく思わないのか、生物が私に挑みかかってきた。
 その反抗的な態度に気分を害した私は、さらなる責め苦を決行することにした。
 棒の先端に布をくるませた、エノコログサに似た対生物用の秘密兵器でもって何度かあしらってやり、力の差を見せつけながら、ニヤニヤとした視線を浴びせかけてやる。
 別の日には小さな箱に無理矢理閉じ込めると、落ちたら間違いなく死ぬであろうような高所に連れ出し、生殺与奪の権利が誰にあるのかを思い知らしめる。
 さらに大勢の人妖の中に放り出し、代わるがわるに弄ばれるように取り計らう。中でも紅魔館の鬼メイド長が気に入ったらしく、一番長くこの生物に冷たい視線を浴びせかけながら、秘密兵器を使用して痛めつけていた。
 そうして何日か責め苦を味あわせていると、無理がたたってきたのか、やがてすぐに疲れて座りこんでしまうようになってしまった。
 すっかり慣れ親しんだであろう質素な監禁部屋とは違う小さな箱に詰め込み、わざわざ箱が揺れるように全速力で空を飛び、竹林の奥で人知れず生活している怪しげな濃紺と赤黒い衣装に身を包んだ人物に引き渡す。
 無理矢理その身体を押さえつけられ、胡散臭い液体を注射される時の悲鳴にはさすがに耳を覆いたくなった。
 どのような効果があるかもわからない薬品を受け取り、毎食後に飲ませる事、そしてその薬品がきれたらまた来る事を約束すると、再び館に連れ返り、監禁する。
 今までよりさらに苦痛を味あわせなければならないようなので、暑さ寒さを忘れるように室温を調整させた上で、毎日時間の許す限り棒の先端に針状の物をいくつもつけたような器具で毛皮をこすり、さらに気を失わぬように適度に話し掛けるという精神的苦痛を与える事も忘れない。
 投薬を続けていると、さらに元気を失ってきた。これでは拷問もできないので再び竹林に通い、胡散臭い衣装の人物の襟首を掴み、苦痛を長引かせる方法はないのかと問い詰めたのだが、前回と同じ苦痛を与える為の注射をうち、投薬を続けるしかないと言われた。
 数日後。
 その生物はたった一言だけ、
「にゃあ」
 と鳴くと、動かなくなった。
 今まで責め抜いてきた私への呪詛だったのかもしれない。
 かの生物から初めて発せられた言葉を聞いた私は監禁を解き、捕獲したあのお気に入りの場所に行くと、土の中に埋めてやるという最後の苛めをした。
 埋めた場所から出て来ないようにずっと見張っていると、ぽたりと土の上に雫が落ちたので、それを合図に私は振り返らずに館に戻った。

 お前になんか、涙一粒で充分だ。
コメント



1.無評価Libby削除
What a joy to find such clear thinikng. Thanks for posting!