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あした天気にしておくれ

2012/08/21 01:41:36
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あした天気にしておくれ

豆蔵
 どんよりと厚く黒い雲が空一面を覆っている。
 太陽を見たのは何日前だったろうか……そんな風に思いながら、博麗霊夢は熱い緑茶の入った湯のみに口を付けた。ほぅ……と、息を一つ。
 霊夢の眼前には、いつもと同じ景観の博麗神社境内が、いつもの通りそこに存在していた。何も変化してはいない。……いや、変化が無いと言うのは語弊がある。諸行無常―――自然に存在する全てのものは、刻一刻と変化し続けている。瞬きの間とて、そこにあるものは先程とは僅かに違うのだ。ただその変化が、霊夢にとって何の意味も成さないだけである。だから何も変化していないという事と、同義なのである。
 昨日と同じ縁側に座り、昨日と同じ茶葉で淹れた緑茶を飲む。昨日座った場所から数センチずれているとか、今日は茶葉が若干多くて昨日より少しだけ渋味が強いとか―――そんな変化なぞ感じる事は無意味だと、霊夢は考える。
 ならば、どれほどの変化があったら、それを感じる事が出来るだろう。緑茶が突然紅茶になったら、何か思う事はあるだろうか。……紅茶も嫌いじゃないけどねぇ、と言って、まぁ飲むだろう。
 滑稽な考えに、霊夢は自分の事ながら思わず苦笑した。
 そんな彼女は、もう何年も『変化』など感じてはいない。思い出してみれば一番変化が目まぐるしかったのは、もう遠い過去の事だ。
 赤い霧が幻想郷を覆ったり、いつまで経っても春がやってこなかったり……そんな事件が多発した頃。黙っていられない連中が何だ何だと騒ぎ出し、結局霊夢も巻き込まれて、そして解決してきた。あの頃はほぼ毎日、何かしらあったものだ。
 では、いつの頃から静かになったのだろうか。
 ―――彼女が、ここへ遊びに来なくなってから……辺りか。
 老いた彼女の横で、まったく姿の変わらない霊夢が、その最後を看取るまでずっと見守っていた。
「私は普通の人間で……普通に歳をとって、普通に人生を謳歌してきたつもりなのになぁ。よりによって最期を看取ってくれる相手がこんなのか。最後の最後でこりゃ、ちょっと愉快過ぎだぜ」
 それが彼女の最期の言葉だった。
 彼女はそう言って、心底愉快そうに笑って、そして逝った。齢八十という大往生である。
 喪失感は確かにあった。二度と戻らぬ日々を思い、初めて周囲に涙を見せた。
 ただそれも、霊夢の心を『変化』させるような出来事では……なかった。
 次の日には、今と同じように縁側に座って熱い茶お茶を啜っていた。僅かな変化を挙げれば、この日から霊夢は湯呑みを一つ余計に用意しておくという、毎日していた行動を止めただけ。
 それからもいくつか事件と呼べる出来事はあった。霊夢は当たり前のようにそれらを解決し、結果として幻想郷はその静けさを今も保っていられる。
 そうして過ぎてゆく変わらない日々。そのはずなのに、同じ景観が広がる境内は何故か寂しそうにも見える。
 今でも交友がある者は、もう大分少ない。
 宴会の幹事がいなくなり、当時は頻繁に行われていた騒ぎも年に一、二回するかしないかに落ち着いている。たとえ行われたとしても、そこに当時の賑わいはない。その寿命が人より何倍も長い妖怪達も、程度の差はあれ皆自然の流れに逆らわず『変化』していったからだ。
 妖怪の死とは様々である。ある者は大木となり多くの命を育む苗床となったり、ある者は幻想郷の風となって今でも漂ったりしているらしい。
 ただ、それを霊夢が認識する事は無く、向こうにはそもそも意識なぞ残っていない。魂は彼岸の向こうに旅立っているのだから、抜け殻が自然の一部として『変化』しただけの事なのだ。人と『死に方』が違うというだけで、『死』を迎えるという意味は人も妖怪も変わりはしない。そうして知己は減っていき、今はもう特に長寿の存在か、永遠に死を迎えない者だけが極稀に会いに来るだけとなったのである。

 霊夢は人間だ。在り方やその思想は、あくまでも人間として存在している。
 ただ、あらゆる束縛から解放され、重力すら無視するという意味の『空を飛ぶ程度の能力』をその身に宿している。それは『死』という自然の摂理すら無視し、先程の話を除けば、霊夢はその姿を些かも『変化』させてはいない。
 幻想郷は変化を嫌う。
 永遠に楽園であり続けることを望む。
 それを守る博麗の巫女が変化しないというのは、この世界において当然の、自然の摂理なのかもしれない。

 空の湯呑みをそばに置いて、霊夢は今一度空を見上げた。黒くうねる雲は随分低く感じて今にも落ちてくるように思える。それはまったく当たり前の現象で、ここ数日続きっぱなしで、いい加減うんざりしている雨の事。恐らくもう少しの間でざっと降り始める。そうなればもう、境内掃除は出来ない。となれば夕食の準備をして、食べて、寝るだけだ。
 何か特別な『変化』が起こらない限りは―――
「こんにちは霊夢」
 それは先程まで誰もいないと思っていた目の前から突如聞こえた。霊夢は特別驚く事も無く、声のした方に目を向ける。雨の気を含んだ冷たい風が艶やかな黒い前髪を揺らした。
「遊びにきたわよ」
 にっこり微笑む少女。これだけ薄暗いのに日傘を差し、背に生えた黒い羽をゆっくり上下に動かし、レミリア・スカーレットがそこに居た。
「昼間から吸血鬼が来るな」
 目が合ったのは霊夢がレミリアを確認した一瞬だけであった。その認識は今にも降りそうな雨の気配より興味が無い。再び黒雲の空を見上げ唇に湯呑みを付けた。お茶を啜る音が良く響く。
「夜ならいいの?」
 レミリアは気にせず、とことこと霊夢の近くまで歩いて寄った。見上げる視線の先に自分の顔を置いて、にっこりと微笑む。
「……夜も来るな」
 迷惑―――という意思表示を露骨に表情で表す。
 それでもレミリアの笑顔は崩れなかった。霊夢の隣で靴を脱ぎ丁寧に揃える。屋根の下に体を隠して、そこでレミリアは日傘を閉じた。
「やけに嬉しそうね」
 霊夢は横目でちらり、その屈託無い笑顔を見る。
「霊夢に会えるの、久しぶりだから」
 その隣にちょこんと座る。ふわりとお碗のように広がった桃色のスカートが、レミリアの下半身をすっぽりと覆い隠す。「座れば牡丹」という言葉がまさに当てはまる……可憐な姿であった。
「そうだったかしら」
 そんな姿も、霊夢にとってお茶のおかわり以上惹かれるものにはなりえない。
「そうよ? 前に会ったのは……咲夜が逝った時ね。もう二百年以上前の事だわ」
 霊夢は返事をしない。そうして黙り込んだまま手元に置いてあった空の湯飲みを取り、音もなく立ち上がった。
「紅茶がいいな」
 部屋の奥に行く背中へそんな要望を投げる。
「緑しかないわよ」
 霊夢は振り向かず戸棚を目指す。
「いいわ、霊夢の血で紅くしてくれれば」
「自前で染めなさい」
 こげ茶色の古ぼけた急須を取り出した。その隣には鮮やかな紺色の茶缶、開けてみれば残る茶葉はもう随分少ない。
「えー……自分の血なんか飲んだって美味しくないわ」
「……どうでもいいけど、そうなんだ」
「人間だって、いくらお腹が減っても自分の肉を食べたいと思わないでしょう?」
 ふと急須の茶葉を取り替える手を止めて、霊夢は少しだけ考えた。そして
「……そりゃ、そうね」
 妙に納得して、それから作業を再開した。

 淹れたての熱い緑茶。ゆらり薄く湯気が立つ。
 霊夢はそのまま啜る。レミリアは、ふぅふぅと何度か息を吹きかけてから一口。
「人間より頑丈なくせに猫舌?」
「そんな訳ないじゃない。ちょっと思い出しただけよ。こんな事をしないとお茶のひとつも飲めなかった誰かさんを、ね」
 空を見つめながら呟いた。
 灰色の空は今にも泣き出しそうなほどに暗く沈み、太陽の欠片すらもそこには見えない。
「いい天気ね」
「どこがよ」
 そんな予想通りの相槌にレミリアがくすりと笑みを漏らす。
 と、それをきっかけにでもしたのか―――ぽつりぽつりと地を叩く音が聞こえてきた。
「あ……雨」
 見上げたまま、小さく漏らしたそんな言葉
 その言葉に反応するかのように降りは強くなり、あっと言う間にどしゃ降りとなった。降り注ぐ水があらゆるものを叩き轟音が鳴り響く。
 二人は風によって飛んでくる雨水を避けるため座ったまま屋根の奥へと避難した。
「困ったわ」
 少しも困った表情を見せず、レミリアは霊夢を相変わらずの微笑で見つめる。
「曇ってた。降りそうだった」
 ジト目で返す霊夢。
「そうね」
「わざとでしょ」
「さすが霊夢は勘が良いわねぇ」
 ころころと可愛らしく笑うレミリアとは対照的に、霊夢はやれやれとため息をついた。
「今日は泊めてね」
 立ち上がれば流石に、座った霊夢よりは目線が高くなる。その瞳を覗き込むように屈み、ねだる様にそう言った。
「雨が上がれば帰るの?」
 すぐ目の前に迫ったレミリアの瞳をじっと見返す。その真紅は見るものを強烈に惹き付ける魔力と魅力を秘めている。そんな魔眼を霊夢は至近距離から見つめ返しているが、その反応に何ら変化は見られなかった。それは霊夢が防御策を講じていた訳ではない。親友の死をも容易く受け入れる霊夢の心は、その程度で揺れたりしないだけ。
「このどしゃ降りが今日中に上がれば、もしかしたらね」
 分厚い雲は未だ黒くうねり、その先で光るはずの太陽を完全に遮断したまま。返事をしない霊夢の瞳に写るレミリアが微笑んだ。それで良いと満足した顔。
 すると霊夢は無言で立ち上がる。湯呑みも急須も持って行かないので、お茶を淹れなおす気ではないらしい。レミリアが何も言わずにその背中を見つめていると、部屋の中に入っていった霊夢はごそごそと戸棚をあさり始めた。何かに気づいた様子から目的の物はすぐに見つけたらしいが、それだけでは足りないのか、また別の引き出しに向かうとそこでもごそごそと何かを探しているようだった。興味深くそれを見つめるレミリア。
 やがて戻ってくる霊夢の手には和紙とはさみ、そして裁縫用の糸があった。
 それをレミリアの横に置くと、何かを思い出したように再び部屋に戻り、今度は墨汁と墨を持ってきた。
 霊夢が何も言わないのでレミリアも何も言わないまま。ただ霊夢がする作業を、隣に引っ付いてまじまじと見続ける。
「てるてるぼ~ず てるぼ~ず~」
 急に霊夢が歌い出した。鈴の音のように綺麗で澄んだ声が雨の中に小さく響く。その調子に乗って、和紙を一枚くしゃくしゃに丸めてダンゴを作る。
「……」
 歌う霊夢とその手にある紙とを交互に見ながら、レミリアは彼女がしている事をただ見つめ続けていた。
「あ~した……じゃないわね。今すぐ天気にしておくれ~」
「……」
 ダンゴを新たな和紙の中心に置いて包む。
 捻って中のダンゴが落ちないようにすると、その余った部分の付け根を糸で数回巻いて縛り付けた。そうして結び目から伸びた糸の片方を、
「それでも曇って泣いてたら」
「……」
「そなたの首をちょん切るぞ」
「……」
 歌の終わりに合わせるように、ぱちんとはさみで切った。ダンゴを包んだ丸い部分に、霊夢は筆で目と口を描き込む。
 出来上がったのは、何とも簡易的で粗末な人形が、一つ。
「……てるてるぼーず?」
 霊夢の手にある、たった今出来上がったそれを不思議そうに見つめながら、レミリアは小さく首を傾げた。
「知らないの?」
 霊夢はそんな彼女の目の前に、長く残った糸を持って人形を垂らした。
「藁人形なら知っているわ。森に居た人形遣いの趣味でしょ。それは霊夢の趣味?」
「随分、慎ましやかな人生ね」
 くすっと笑って、霊夢が再び立ち上がった。
 首元を縛った糸を伸ばし、縁側の屋根の下に縛り付けて吊るす。
「『博麗』首吊り和紙人形~」
 羽をぱたぱた動かして、レミリアが冗談交じりに調子を付けた。
「そんな気味の悪いスペル使わないわよ。これは雨上がりを祈祷する儀式なの」
 ちょんと吊るされた人形を軽く突付く。ゆらりゆらりと小さく揺れて、くるくる回る。
「こんなのが?」
 そんな動きをぼぅっと眺めるレミリア。
「こんなのって言う意味じゃ、藁も相当なものだと思うけど」
「あー、それもそうねぇ」
 くるくる、くるくる、和紙人形はゆるりと回る。
 やがて加えられた力は失われ、人形は揺れる事も回る事も止めた。

「照々坊主」
 雨の落ちる轟音の中で、霊夢の呟く様な声は、何故か何よりも良く通って聞こえた。
「この人の形を人質として神にお願いするのよ、雨を止めてくださいって。成功したら神前に祭り、失敗したら処刑する」
 ふぅんと声を上げながらレミリアも立ち上がり霊夢の隣に並ぶ。こうすれば流石に、レミリアの背丈は霊夢の胸辺りまでしか届かない。
「血生臭い風習ね。この人形は、どちらにしても死ぬ為に生まれてきたんだ」
「その哀れさが神の御心を動かすとか、そんな感じかしら。神がこれに同情するかどうかなんて、知った事じゃないけれど」
 冷たい風が吹いた。吊るされた人形は左右に揺れる。霊夢が描いた簡素な笑顔は、この人形がいつか消滅するその時まで崩れる事はない。変化する事無く、己が生まれ持った使命を果すだけ。
 そんな人形を見つめて、レミリアは思う。
 ―――ああ、この人形はまるで―――と。
 雨はその激しさを些かも衰えさせない。照々坊主は神に見捨てられたのだろうか。
 ―――あるいは雨が降る今日の様な日に、その命を差し出される事そのものが、この儀式に込められた真の目的なのかもしれない。
 雨という『変化』に、大切な物を流されぬよう差し出される……『生贄』なのかもしれない。
 だからレミリアは思うのだ。この人形はまるで変化という命の営みを、変化を望まぬ幻想郷に生贄として差し出された―――
 博麗霊夢にそっくりじゃないか、と。
 いつまでも変わらぬ笑顔のまま、吹く風にゆられて回り続けるその姿が、まるで。

「……霊夢は」
 レミリアが呟く。視線はてるてるぼうずに向いたままで。その目は少しだけ伏せられ、何かを悲しんでいるようにも見える。
「霊夢は……この人形を、哀れだと思う?」

 霊夢はすぐに答えなかった。彼女もまた、くるくる回る人形を見つめ動かない。
「……」
「……」
静寂。
 ざあざあと響く音。弱く吹き抜ける風が、霊夢とレミリアの髪の毛をふわりと揺らす。はるか彼方の空まで伸びる黒い雲は相変わらずうねり動く。
 まだまだ雨は止む気配も見せない―――
「……思わないわ」
 静寂が終わる。
 その言葉は隣に立つレミリアに向いている様で、空の向こうの誰かに向いている様で、そして誰にでも無く自分に向いている様で。
 レミリアはただ、どこか遠くを見つめる霊夢の横顔を静観する。
「この子は、この為だけに生まれた存在だもの。その使命以外には何をしようとする意思も無いし、そんなものは芽生えない」
 照々坊主がくるくると回った。まるで舞っているかの様にくるくると回った。
「……違うわね。意思が生まれたら、それは哀れだわ。この体じゃ吊るされる以外に何も出来ないのだから」
「天命を成就するのね」
 呟きに似たその言葉に、霊夢は視線を変えぬまま小さく頷く。
「そう。この世に生まれた全てのモノは、持って生まれた天命を果せば良いのよ。それは違う存在から見れば、不幸に見えるかもしれないけど」
 霊夢は変わらず、此処ではないどこかを見つめ続けている。―――どこを見ているのか何を見ているのか……それは残念ながら、今のレミリアには理解できない。
「妖怪が人を襲うのも天命?」
 だから問う。
 知る為に。
「人が妖怪を退治するのもね」
 霊夢は答える。彼女にしか言えない言葉で。
「だから人は妖怪の事情など知らない方が良いし逆も然りよ。ただ、喰らう退治するでいいわ」
 人がもし照々坊主の価値観を知れば、こうして神への供物に捧げられる生を望むのかもしれない。
 照々坊主がもし人の価値観を知れば、吊るされるだけの生に嫌気を感じるのかもしれない。
 しかし人が己を照々坊主と同等の存在にする事など出来ないし、照々坊主が人と同じ生を歩む術などもまた―――無い。
 互いを知る事で、本来なら手に入れられる筈の幸せを失い、決して手に入らぬ幻のような幸せを求めるようになるという事―――それは、
『何の為に生まれてきたのか』
 そう問いたくなるくらいに、不幸な事ではないだろうか。
 だから少なくとも人は、照々坊主の価値観なぞに思いを馳せない方が良い。吊るして、神への供物として捧げれば良い。それがこの簡素な人形の幸せなのだ。そう思うことが、人と照々坊主の正しいあり方であるはずなのだ―――
 ―――人と妖怪もまた、然り。
「それでも……私は」
 その言葉は、今までレミリアが発したどれよりも小さな呟きだった。しかしそれが、ずっと向かなかった霊夢の視線を、幼き吸血鬼に向けさせる。
 ここに来てからずっと穏やかな笑顔だったレミリアの表情はいま、静寂を思わせる程、無い。
「物心付いて幾百年……少し前まで私は、吸血鬼である自分に何の不満も疑問も無かった」
 一歩、前へ。
「でも、咲夜に会って……霊夢に会って」
 霊夢との距離は、ほぼ零に。レミリアは両手を後ろで組んで霊夢の顔を見上げる。互いの瞳には互いの顔がはっきりと映っていた。
「私は、人であるあなた達と……ううん」
 愛しい、その顔に、
「あなたと一緒に生きたいって思ったわ」
 再び―――微笑みかけた。

 とても儚く、切なく。
 闇夜の支配者、吸血鬼だということを忘れてしまうような、そんな―――見た目相応の少女の、そのままな微笑み。

 霊夢は、無言―――無表情。
 その笑顔をただ見つめる。
 レミリアの瞳に映った自分の像が、浮かんだ涙の所為で歪む。それがどのような意味を持つのか、霊夢は理解していた。
 それでも楽園の巫女は、
「レミリア―――それは出来ないわ」
 そう答える。
「何故」
 問いかけるレミリアの表情は曇らない。
 知っているから―――自分が問うたその質問の答えを知っているから。だからそのままの表情で、その頬を雫だけが流れ落ちていく。ぽたりと畳の上に落ち、滲みて消えていく。

 博麗霊夢はいつまでも変わらぬ楽園を、その命尽きるまで守り続ける運命の巫女。彼女の存在は幻想郷そのものが『変化』しない限り変わらない。
 何物にも束縛されない。
 重力すらも超えて。
 それは心も……誰か一人に思いを縛られる事など決して無かった。ずっと一緒に生きてきたはずの親友が居なくなった時も、霊夢の心が悲しみに縛られる事は無かったのだから。
 異様なのだ。どんな強大な存在も何かに依存せねば生きる事は困難であると―――それが自然なはずなのに。永遠の命が狂気に救われていた様に、それこそが存在の正しい在り様なのに。
 霊夢はたった一人で生きていける。たとえ、誰一人ここに訪れなくなったとしても、毎日お茶を飲み妖怪を退治し糧を得て、何事も無く生きていく。
 たった一人で生きられるから彼女は仲間を必要としない。退屈は苦痛ではないが楽しいのは素敵……彼女にとって仲間とはその程度の認識。

 それは誰の目にだって、冷たい人間として映るはずなのに―――霊夢は好かれた。関わった人も妖怪も関係無く彼女を慕い、彼女の回りにいつも集っていた。
 レミリアもまた、かつて自分が巻き起こした事件で霊夢と知り合い、そして惹かれた。
 最凶の『ヴァンパイアロード』という存在である自分を、食料だと思っていた人間が、あらゆる面で超越していたのだ。
 まずは驚き。
 次に惹かれ。
 やがて憧れて―――
 そして―――恋をした。まったく普通の少女の様に。霊夢の笑顔を見ればそれだけで幸せが溢れてくる。胸が温かくなる。もっとその温もりに触れたいと思う。
 幾百年、レミリアは一途に想い続けてきた。
 そしてこれからも想い続けるだろう。
 ―――霊夢の隣で生きたい、と―――

「……私が吸血鬼にでもならない限り」
 霊夢は答える代わりに、先程の言葉を補足した。
 しかしそれが全ての答えとなる。『照々坊主はこれからも照々坊主のままだ』と。
「なってくれる?」
 答えを聞いてもなお言葉を続ける。それは既に質問ではなかった。答えはもう聞いたのだから、これは『悲願』だ。どんな方法だって構わない、霊夢と一緒に―――そう伝える言葉。
 永遠の巫女が目を伏せた。瞳に映っていた自分が見えなくなって、少女の胸は締め付けられるように痛む。
「あなたは知らないんでしょ」
 こんな問答は無意味だと―――レミリアから離れて背を向けた。
「何を?」
 霊夢が目を開く。その視線が向けられた先には、ふらりふらりと風を受けて揺れ続ける哀れな生贄。
いつまでも笑顔のままで。

「ぽかぽかお日様の下でお茶を啜る幸せを、よ」
 ―――言葉は返ってこなかった。霊夢はレミリアの望みを全て断ち切った。幼き吸血鬼が愛しい巫女を振り向かせる言葉は、もう何も残ってはいなかった。
 レミリアが人の命を吸う『妖』であり、霊夢が妖を退治する『巫女』である限り、二つの命が共に歩む道は無い。いつかどこかで衝突し、戦い、そしてどちらかが消えてなくなる。それは避けられない運命。自然の摂理。
 大地は既に限界容量の水を吸い尽くし、溢れた雨は小さな川となって低い方へと流れていく。それは川を氾濫させ大地を飲み込み、数多の命を奪うかもしれない。

 背中から言葉が返ってこないまま暫くの後。
霊夢の心臓が一瞬だけ高鳴る。久しく感じていなかった感覚だった。今まで何度も霊夢本人と幻想郷を救ってきた、神懸り的な予感である。
 それに動かされ、霊夢はゆっくりレミリアへと振り向いてみる。
 そこには当たり前のように彼女が居た。真紅の瞳は変わらず霊夢を見つめ続ける。
 視線が合う。二人とも無表情のまま。
 先に視線を外したのはレミリアだった。顔をあげて照々坊主を見る。続いて霊夢も視線をそちらに向けた。
 右に回り、止る。
 左に回り、止る。
 くるくると、まるでダンスを踊るように。
 嫌な予感が胸から消えない。霊夢は再び視線をレミリアに移す―――その瞬間だった。

 レミリアは照々坊主に小さく微笑みかけて……
 降りしきる雨の中に、その身を投げた。

「ッ! レミリアッ!」
 慌てて霊夢がその腕を掴む。だが引き戻す力を加える時間は無かった。レミリアに引き寄せられるように、霊夢の体も激しい雨の中へ。咄嗟にその小さな体を庇うように抱いた。
 吸血鬼の弱点の一つ。流れ水の上を渡れず、雨の中を動く事は出来ない。
 蝙蝠一匹分でも残れば再生できる吸血鬼でも、弱点によって滅した場合、それは完全な『死』となる。二度と生き返ることはない。
 霊夢はレミリアの小さく細い体全てを庇おうと力の限り強く抱いた。だがそんな事では、とても庇いきれる雨量ではない。
 急いで屋根の下に戻ろうとして、
「……あ」
 周囲を、自分を、レミリアを見て……小さく声をあげて驚く。
「―――濡れてない……」
 お互いの体の少し上、当る雨は全て弾かれていた。良く見ればそこには、いつの間にか薄い光の膜があって、それが雨を弾いている。
 呆気にとられていると胸元に抱いたレミリアがくすくすと笑い始めた。抱きしめる力を緩めると胸元の少女は少しだけ体を離し、顔を上げて間近に迫った霊夢を見つめる。
「凄いでしょ。パチェに教えてもらった雨避けの魔法よ」
 その単純な言葉を理解するのに少しだけ時間がかかる―――そしてこれがレミリアの悪戯であると悟った時、霊夢は両目を瞑って酷く大きなため息をついた。
「ごめんなさい、驚かせるつもりは……あー……あったわ」
 霊夢が薄ら目を開く。あきれたように、または少しだけ腹を立てたように、レミリアを睨む。
「こういう冗談は止めてほしいわね。雨じゃなくて私が葬るわよ?」
 その目を、じっと見つめて、
「割と本気?」
「割と本気」
 レミリアは微笑んだ。とても幸せそうに。
「ありがとう、霊夢」
 そして一切の淀み無く言う。
「……正直、あなたが手を伸ばして、抱いてくれるなんて、思ってなかった」
 真正面からそう言われて、咄嗟ながら自分のした行為に少しだけ恥ずかしくなる。霊夢は目を瞑り、ゆっくりレミリアから離れようとして、
「駄目」
 ぎゅっと両腕を掴まれた。再び視線をレミリアに戻す。
「今離れたら、直ぐずぶ濡れになっちゃうわ」
 その目と両腕を掴む手を交互に見て、霊夢はまた大きなため息をついた。
「ふふっ……」
 レミリアが笑う。現状が意のままであった事に満足した笑みである。
 抱き合う形で雨の中に立つ二人。言葉は無い。
 雨音だけが絶える事無く耳に入る。一瞬風が強くなって草木を揺らした。霊夢とレミリアの髪も揺れるが、横になった雨も光の膜は完全に弾く。
「……それで?」
 雨音のみの静寂を霊夢が破る。
「ん?」
 レミリアが小首を傾げた。
「雨避けの魔法が凄いのは解ったわ。で、これからどうするの? まさかこのまま、雨が止むまで立っている気はないでしょう?」
 空を見上げた。雨足は若干弱まったように思えるが、待っていられるほど早くは止みそうに無い。
「そうね……私は別に、このままでも良いけど」
 レミリアは霊夢の腕から離れぬ様にゆっくりと手を移動させ、その先にある彼女の両手を握った。
「じゃあね……私と踊りましょう」
 そして提案する。霊夢は視線を戻して、
「踊る?」
 予想外の答えに少しだけ面食らった。眉を顰め少女の小さな瞳を覗く。
「そう、ダンス。雨の中で濡れずに踊るなんて、ちょっと素敵でしょ」
「……ダンスなんて知らないわ」
 そっぽを向いて視線を逸らす。
「大丈夫。私がリードしてあげるから」
 そんな霊夢の両手を引いて、レミリアは庭の中心、石畳の上へと誘う。
 そして背中の羽根を広げた。左手を霊夢から離して上へ掲げる。それはうっすらと光りを発し、レミリアが指をパチンと鳴らすと同時にそこから二つの紅い光玉が生まれた。ゆっくり浮遊しつつ主から離れる。雨に紛れて、手を繋いだ二人の周囲をくるくると回る。
 あれほどうるさかった雨音が消えた。一瞬感覚が失われたのかと体を強張らせる霊夢だが、それが勘違いであるとすぐに解った。
 雨音の代わりに、二つの紅い光玉から旋律が奏でられ、耳に届いたのだ。
 ゆったりと、壮大で、優雅な音楽。
 ピアノの落ち着いた音色にヴァイオリンとビオラの高音旋律が重なって、チェロ・コントラバスの低い響きはクラリネットの主旋律をより壮大なものへと昇華させる。時折訪れるフルートは他の一切より自己主張が激しいが、それは全体の調和を崩す事無く、より胸に届く一つの力として曲全体を支えた。
 ―――七重奏である。
「……素敵ね」
 代わる代わる視界に入る紅玉を見つめ、霊夢が呟く。
「でしょう? これは私の曲、私だけの曲。でも今はあなたに捧げるわ」
 密着していた体を離し、霊夢とは伸ばした右手一つで繋がる。離れぬよう、離さぬよう、そして霊夢に苦痛を与えぬよう、ぎゅっと握った。
「タイトルは?」
 霊夢が問う。
 レミリアは答えた。

『亡き王女の為のセプテット』

 スカートの端をちょんと持ち上げて、レミリアが優雅に会釈をする。霊夢も真似てみるが、慣れない所為か少しだけ不恰好になった。
 体を寄せて密着し、自身の右手と霊夢の左手を重ねて握り、それを肩の高さと合わせる。霊夢の右手を自分の腰に誘導して抱かせると、空いた左手を同じ様に霊夢の腰に回した。
 ゆるやかな旋律に乗って右足を一歩前へ。慌てて霊夢も、左足を同じだけ前へ。タイミングは酷く外れたが、レミリアは満足そうに微笑んで頷く。
 そして、今度は同時に残った足を引いて、先に動いた方と揃え整えた。これで一つの動作とする。
 後はこれを繰り返すだけ。
 こんな単純な動きでも、愛しい人と踊るダンスの大事な一部である。単調なダンスは、良く知るレミリアにとっては退屈であるはずなのだが、今は違う。まったく違う。
 ダンスの相手が霊夢だから。
 石畳の端まで動いて、二人はくるりと回り元居た方へ体を向ける。その際レミリアは少しだけ背を反って霊夢に体を預けた。少女の軽すぎる体重で霊夢は体制を崩し、胸と胸が重なる。心臓の近くで心臓の鼓動を聞いた。まるで一つに解け合ったかのような感覚。ダンスとは二人が互いを想い合い、そして一つになれる手段なのだ。
 素敵な調べに乗って愛しい人と身を任せ合う、永遠に続けば良いのにと本気で思う……一時。
 幸せが溢れて、レミリアは微笑む。
 本当に幸せそうな笑顔は知らず伝染し、霊夢もまた微笑んでいた。『やれやれ』と、苦笑交じりではあったが……その笑顔を見る事が出来たレミリアの瞳に、薄く涙の雫が浮かんだ―――

「ッ!」
 突然レミリアの表情が歪む。
 動きが止まった。霊夢も足を止める。
「どうしたの、レミ……あっ」
 言いかけて気が付く。レミリアの頬に、小さな火傷が出来ていた。うっすらと煙をあげている。
 何が起きたのか考える前に、霊夢の頬に当たったそれで全てを理解した。
 ―――雨の雫だ。
 先程まで完璧に弾いていた障壁だが、良く見れば、その時より光の加減が弱くなっている。
 本当に時折……ちょんと、頬や手に雨の一雫が落ちてきた。だがそれだけで、幼い吸血鬼の白い肌に一瞬だけ青い炎が立ち、真っ赤な酷い火傷が出来上がってしまう。これが雨による傷でなければ瞬時に再生するのだが、幼い外見に残酷な傷跡は、酷い箇所では出血しながら煙を上げ続けている。
「ごめんなさい、この魔法……実は一人用なの」
 痛みに目を伏せつつ、レミリアが呟く。その間にまた一つ雫が落ちて少女の頬に当った。先の傷のすぐ近くで、重なった痛みに小さく「うっ」と唸り、左手でそこを庇った。
 このまま魔法が解け、全身に雨を浴びれば……彼女は激しく炎を上げて燃え上がる。生きている細胞全てがそれに焼かれ、数十秒で物言わぬ灰となるだろう。それは神社の土となり、二度と再生しない。永遠に紅い幼き月の、真の消滅となる。
「屋根の下に戻りましょう」
 霊夢がつないだ手を引く。
 だがレミリアは抵抗し動かなかった。
 また雫が落ちる。
 霊夢と繋いだ右腕から『じゅっ』と音が鳴って煙が立ち昇った。皮膚が破けて血が滲み、そこは真っ赤に染まっていく。目を背けたくなる位に、あまりにも痛々しいその光景。
「レミリア……!」
 見ていられないと再び力を入れる。今度は多少乱暴に引っ張るが、それでもレミリアは動かない。

「……ねぇ、霊夢」
 焼けた頬に手を当てて、小さな声で呼びかける。
 その声に、霊夢は力を込める事を止めた。自分の名を呼んだ幼き吸血鬼をじっと見つめる。
「いつか私―――完全に雨を克服してみせる」
 レミリアが顔を上げた。
 その顔に笑みは無い。あるのは決意と悲しみ、それを表す目と涙。まるで人間の様に……。
 伸ばしても届かない己の手の長さを悔しがる、孤独な少女のそれだけであった。
「雨だけじゃないわ」
 光の膜が大分薄くなってきている。ぽつりぽつりと、雫がレミリアのあちこちに落ちて、小さく煙をあげていく。いつのまにか、少女は全身のあちこちが赤く爛れていた。傷の重なった箇所は酷く出血し、それは白い肌を伝って光の膜の外へ落ちて、大地を包み込む水の一部となり消える。
 レミリアは言葉を紡ぐ。ぼろぼろになりながら、そうでもしなければ伝えきれない想いを乗せて。
「日光も、流れ水も、炒った大豆も……この喉の渇きも、全て、全て……」
「全て……あなたの為に」
 両目に溜まっていた涙が流れた。頬を伝い頬の傷を通る。紅い血と交わり首筋へと落ちていく。
「…………」
 そして霊夢は、ただ黙って聞く。
「あなたがあなたで在り続けるというのなら、私が変わってみせる。あなたの隣に寄り添える存在へ、きっと……」
「…………」
少女の溢れる思いに、ただ静かに耳を澄ます。
「人であって、全てを超越したあなたに……私は必ず近付いてみせるから……」
「…………」
 ゆっくりと両目を瞑る―――
「だから……だから……!」
「それは、幻想郷にとって異物よ」
 続くであろうレミリアの言葉を遮る。霊夢の声は低く、感情を色濃く含んでいた。
「博麗ではないあなたが博麗と同じ存在になる、それは永遠に楽園であるべきこの世界にとって、それを壊す可能性を持つ異端者になるという事。
 ……ねぇ、レミリア。もしそうなったとしたら、私は幻想郷の秩序を保つ為に、あなたを―――」

 霊夢は一切の躊躇無く、目を開き少女を見つめ、
「あなたを、殺すわ」
 そう言い切った。

 本気の言葉であった。もし『その時』が来れば、霊夢は言葉の通り、彼女を完全に滅ぼすだろう。
そこに一切の同情や私情は挟まない。
 全て解った。その言葉の意味を理解した。
 だからレミリアは目を見開いて驚き……そして、笑った。
「それでもいい」
 止まらぬ涙を拭わず、傷の所為ではない赤みを頬にさしながら、震える声で言葉を紡ぎ、少女は微笑む。
「霊夢が私を想い、殺してくれるのなら」

 霊夢の背中はまだまだ遠くの先にあって、とてもレミリアの小さな手では届きそうに無い。それは変わらない。
 いや……元々そこは、霊夢以外の存在が手を伸ばして届く場所ではなかったのだ。
 身を乗り出せば、二人の間に広がる空間へと飲み込まれてしまう。そこはあまりに広大過ぎて、レミリアという存在一つが入り込んだ『変化』など、諸共飲み込んで消し去るだろう。レミリアが目指す道とは、そういうものなのだ。
 報われない想い。
 だが霊夢は言った。もしそうなれば、その命は幻想郷に飲まれる前に、私が奪うと―――
 そして、無表情を僅かばかり『変化』させて、そう言ったのだった。
 それは照々坊主がたった一度だけ他人を思い、伝わる事を望まなかった、言葉でない言葉。
 レミリアはしっかりと聞いた。

 ―――ソウ、サセナイデ―――

 霊夢の胸に顔を埋める。霊夢は少女の頭を優しく抱いて、ゆるくウェーブのかかった美しい髪を幾度も撫でた。
 二つの紅い光玉は、今でも二人の周りを回り続けている。セプテットは二人の儚い少女を包み、二人の距離を少しでも近付けようと流れる。
 空を覆う雲の色が漆黒から灰色に変わっていた。
 厚みが薄くなった証拠である。きっともうすぐ止んでくれるだろう。神社の軒下に吊るされた照々坊主の役目も、もうすぐ終わる。
「中に戻りましょう、レミリア。動いたらお茶が飲みたくなったわ」
 ぽんぽんと、レミリアの頭を優しく叩く。
「……紅茶がいいな」
 顔を上げず、霊夢の胸の中で、涙に擦れた幼い声がそうねだる。
「緑しかないわよ」
 レミリアが顔を上げた。くしゃくしゃになった
 泣き顔、目を細めて最高の笑顔で答える。
「いいよ……霊夢が淹れてくれたお茶なら」

 長い長い雨が止む。やがて雲は切れ、そこから太陽の光が差し込んでくる。
 それは、ある者にとって祝福であり。
 それは、ある者にとって呪いである。
 祝福を受ける者達は、この雨で何を奪われてしまったのだろうか。また呪いを受ける者達は何を得たのだろうか。
 そこには決して歩み寄れない距離があり、理解しあう事はないだろう。
 故に、双方は双方に、思いを馳せたりはしないのである。

 太陽の光を受けて、僅か数時間前に生み出された照々坊主は、その役目を静かに終えた。
 一切変わらぬ笑顔のまま、気紛れに吹いた風でくるくると舞った。

 ~終~
コメント



1.無評価Donte削除
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