一面に広がる花畑を眺め、幽香さんったらふと考えた。
なんでこの私が世間の常識なんぞに合わせなきゃなんないわけ? おかしくね? 私だよ私。天上天下幽香独尊と呼ばれたこの私が、なんでそこらの凡俗と同じ真似をしなきゃなんないの? 馬鹿なの? 死ぬの?
そんなわけで服を脱いでみた。
アイム・フリー!
どっかの狐の二番煎じじゃねぇか。しかももうすでにカビが生えて発酵してそろそろ土に還ろうかってネタを何今更のようにやってんだよという天の声が聞こえた気がしたが幽香は気にしなかった。だって幽香だし。
きらきらと輝くお日さまを、全身に浴びてみる。
光合成でもしてんのかって勢いで、全身のお肌が活性化していく。好き勝手食っちゃ寝してた反動で弛みがちだった横腹も、ちょっと垂れ気味だったお乳も、まるで春を迎えたリリーホワイトのようなテンションでぴちぴちすべすべぱっつんぱっつんになっていく。ふんぞり返りすぎて逆猫背になっていた背筋がするりと伸び、常にガン飛ばしていたような視線も険を顰め、今の幽香は紛れもなく最強に美しかった。
無敵である。あらゆる束縛から解放された幽香は歓喜の歌を歌い、歌いながら踊り、踊りながら高らかに笑った。周囲の花も幽香を称えるように揺れ動き、太陽も祝福するかのようにその日差しを強める。一人きりの王国で傘を片手に全裸のまま昼もなく夜もなく踊り続け、そして一週間が過ぎようかとする頃最初の来訪者が現れた。
「いい加減にしなさい。全く破廉恥な」
最初にやってきたのは、予想通りというか法と秩序を重んじる楽園の最高裁判長であった。閻魔は語る――道徳と良識を。得々と切々と千の言葉に万の思いを込めて。
衣服というものは獣と人を分ける最後の砦であり、それを失うということは獣に堕すことに他ならぬ。それは妖怪であろうと同じこと。いやむしろ妖怪であるからこそ、己で己を縛らねばならぬ。法と秩序を持たぬ妖怪たちは、それが故に厳しく己を律しなければならぬのだ。幽香のように強い妖怪ならば尚のこと。他に対する影響力も大きく、故にこのような軽挙妄動をすべきではないと厳しい口調で語った。
全裸のまま両腕を組んでいた幽香は、閻魔に対し虫を見るような目を向け、
「だまれ未開封」
「わ、私だってその気になれば恋人の一人や二人……じ、時間さえあれば――!」
そう言って閻魔は泣きながら逃げ出した。
「ちょっと貴女……頭に虫でも湧いたの?」
次にやってきたのは、幻想郷の要とも言われるスキマ妖怪であった。胡散臭く、誰よりもいい加減だと思われている彼女であるが、実は幻想郷の秩序を守るために日夜奔走していることを知るものは少ない。空間の亀裂からその身を引き出した彼女は、全裸のまま踊っている幽香に呆れたような溜息を漏らし、凛と顔を引き締めて誠心誠意説得をした。
バトル主体のバーサーカーモードくらいしかキャラ立てする方法がないからってそんな色物に走ってどうするのか、ちょいとばかり乳が大きいからってそんなもんこの私や幽々子をはじめとして、永遠亭の薬師とか里の守護者とかがいる以上決してオンリーワンにはなれず、むしろその価値を徒に落としめるだけに過ぎないと、あくまでも彼女なりに誠心誠意心を込めて説得した。
片足を上げてくるくると踊っていた幽香は、彼女に対し売られていく子牛を見るような目を向け、
「失せろ偽装表示」
「わ、私は生まれも育ちも紛うことなき純国産よ! 中国産なんかじゃないわ――!」
そう言ってスキマ妖怪は泣きながら逃げ出した。
「はぁ……ったく、何でこの私が……」
次にやってきたのは、近頃この幻想郷にやってきたばかりの神様であった。紅白のトリでも飾るのかといった勢いで煌びやかにその身を飾り立てた神様は、紫の髪をぼりぼりと掻き毟り、疲れたような顔で幽香を諭す。
あんたが服を着ていようがいまいが知ったこっちゃないが、あんたの姿を見かけたうちの早苗が怯えて部屋から出てこなくなった、どうしてくれんだこの野郎と神様でありながら私情丸出しで幽香を諭す。その際幽香と張り合うようにたわわに実った乳の下で腕を組み、その凶器のような胸部を強調していたことは言うまでもない。
元人妻の醸し出す熟れた雰囲気に流石の幽香も鼻白んだが、ふと思いついたように両手を打ち、まるで生ゴミでも見るような目を向け、
「帰れ不良返品」
「ち、違っ! わ、私は捨てられたんじゃないわ! こっちが捨ててやったのよ――!」
そう言って神様は泣きながら逃げ出した。
神すら退けた幽香に最早恐れるものなどなく、正にこの世の春を謳歌していた。巫女は「関わりたくないから」と言って地霊殿に逃げ込み、不良天人が幽香のフリーダムな生き様に感銘を受けて弟子入りし、龍神すらも見ない振りを決め込んだ。今や世界は幽香のためにあり、幽香は幽香のためにある。彼女を止める者などなく、千年王国の幕開けかと思われたその時、空気の読めない普通の魔法使いが現れた。
「乳輪でかっ!?」
幽香は泣きながら逃げ出した。
その後、幽香の姿を見た者はいない。
なんでこの私が世間の常識なんぞに合わせなきゃなんないわけ? おかしくね? 私だよ私。天上天下幽香独尊と呼ばれたこの私が、なんでそこらの凡俗と同じ真似をしなきゃなんないの? 馬鹿なの? 死ぬの?
そんなわけで服を脱いでみた。
アイム・フリー!
どっかの狐の二番煎じじゃねぇか。しかももうすでにカビが生えて発酵してそろそろ土に還ろうかってネタを何今更のようにやってんだよという天の声が聞こえた気がしたが幽香は気にしなかった。だって幽香だし。
きらきらと輝くお日さまを、全身に浴びてみる。
光合成でもしてんのかって勢いで、全身のお肌が活性化していく。好き勝手食っちゃ寝してた反動で弛みがちだった横腹も、ちょっと垂れ気味だったお乳も、まるで春を迎えたリリーホワイトのようなテンションでぴちぴちすべすべぱっつんぱっつんになっていく。ふんぞり返りすぎて逆猫背になっていた背筋がするりと伸び、常にガン飛ばしていたような視線も険を顰め、今の幽香は紛れもなく最強に美しかった。
無敵である。あらゆる束縛から解放された幽香は歓喜の歌を歌い、歌いながら踊り、踊りながら高らかに笑った。周囲の花も幽香を称えるように揺れ動き、太陽も祝福するかのようにその日差しを強める。一人きりの王国で傘を片手に全裸のまま昼もなく夜もなく踊り続け、そして一週間が過ぎようかとする頃最初の来訪者が現れた。
「いい加減にしなさい。全く破廉恥な」
最初にやってきたのは、予想通りというか法と秩序を重んじる楽園の最高裁判長であった。閻魔は語る――道徳と良識を。得々と切々と千の言葉に万の思いを込めて。
衣服というものは獣と人を分ける最後の砦であり、それを失うということは獣に堕すことに他ならぬ。それは妖怪であろうと同じこと。いやむしろ妖怪であるからこそ、己で己を縛らねばならぬ。法と秩序を持たぬ妖怪たちは、それが故に厳しく己を律しなければならぬのだ。幽香のように強い妖怪ならば尚のこと。他に対する影響力も大きく、故にこのような軽挙妄動をすべきではないと厳しい口調で語った。
全裸のまま両腕を組んでいた幽香は、閻魔に対し虫を見るような目を向け、
「だまれ未開封」
「わ、私だってその気になれば恋人の一人や二人……じ、時間さえあれば――!」
そう言って閻魔は泣きながら逃げ出した。
「ちょっと貴女……頭に虫でも湧いたの?」
次にやってきたのは、幻想郷の要とも言われるスキマ妖怪であった。胡散臭く、誰よりもいい加減だと思われている彼女であるが、実は幻想郷の秩序を守るために日夜奔走していることを知るものは少ない。空間の亀裂からその身を引き出した彼女は、全裸のまま踊っている幽香に呆れたような溜息を漏らし、凛と顔を引き締めて誠心誠意説得をした。
バトル主体のバーサーカーモードくらいしかキャラ立てする方法がないからってそんな色物に走ってどうするのか、ちょいとばかり乳が大きいからってそんなもんこの私や幽々子をはじめとして、永遠亭の薬師とか里の守護者とかがいる以上決してオンリーワンにはなれず、むしろその価値を徒に落としめるだけに過ぎないと、あくまでも彼女なりに誠心誠意心を込めて説得した。
片足を上げてくるくると踊っていた幽香は、彼女に対し売られていく子牛を見るような目を向け、
「失せろ偽装表示」
「わ、私は生まれも育ちも紛うことなき純国産よ! 中国産なんかじゃないわ――!」
そう言ってスキマ妖怪は泣きながら逃げ出した。
「はぁ……ったく、何でこの私が……」
次にやってきたのは、近頃この幻想郷にやってきたばかりの神様であった。紅白のトリでも飾るのかといった勢いで煌びやかにその身を飾り立てた神様は、紫の髪をぼりぼりと掻き毟り、疲れたような顔で幽香を諭す。
あんたが服を着ていようがいまいが知ったこっちゃないが、あんたの姿を見かけたうちの早苗が怯えて部屋から出てこなくなった、どうしてくれんだこの野郎と神様でありながら私情丸出しで幽香を諭す。その際幽香と張り合うようにたわわに実った乳の下で腕を組み、その凶器のような胸部を強調していたことは言うまでもない。
元人妻の醸し出す熟れた雰囲気に流石の幽香も鼻白んだが、ふと思いついたように両手を打ち、まるで生ゴミでも見るような目を向け、
「帰れ不良返品」
「ち、違っ! わ、私は捨てられたんじゃないわ! こっちが捨ててやったのよ――!」
そう言って神様は泣きながら逃げ出した。
神すら退けた幽香に最早恐れるものなどなく、正にこの世の春を謳歌していた。巫女は「関わりたくないから」と言って地霊殿に逃げ込み、不良天人が幽香のフリーダムな生き様に感銘を受けて弟子入りし、龍神すらも見ない振りを決め込んだ。今や世界は幽香のためにあり、幽香は幽香のためにある。彼女を止める者などなく、千年王国の幕開けかと思われたその時、空気の読めない普通の魔法使いが現れた。
「乳輪でかっ!?」
幽香は泣きながら逃げ出した。
その後、幽香の姿を見た者はいない。